2012 Fiscal Year Annual Research Report
窒素を介した樹木-土壌のつながりが温度上昇によって受ける影響
Project/Area Number |
12J03240
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
小林 真 横浜国立大学, 大学院・環境情報研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | 気候変動 / 生態系エンジニア / 窒素循環 / 土壌-植物系 / 冷温帯林 / リター / 団粒 / 一次生産 |
Research Abstract |
地球規模で進行する気温上昇が森林の一次生産力に及ぼす影響が懸念されている。これまで、気温上昇が主に一次生産を行う樹木へ及ぼす直接的な影響については盛んに研究がされている一方、樹木と作用し合う生物を通じた間接的な影響については未だ不明点が多い。森林では樹木の成長は養分である窒素の利用可能量に律速されている。一方、ミミズやヤスデなどの大型土壌動物は落ち葉や表層土壌を物理化学的に改変する事で、落ち葉や有機物に富んだ表層土壌に由来する土壌中の窒素動態へ影響を及ぼす。ミミズやヤスデは気温上昇時に地中に比べて温度が上がりやすい地上面に生息している。そのため、ミミズやヤスデは温度上昇による影響を受けやすく、結果として土壌中の窒素循環や樹木の一次生産へ影響を及ぼす事が予想される。そこで本研究では、横浜国立大学内の人工気象室内において、大型土壌動物のヤスデ(2種)の存在が気温を3.3℃(2050年までの日本付近での推定気温上昇程度)上昇させた際の土壌-樹木系の反応とどのように関わっているのかを調べた。 実験の結果、3.3℃の気温上昇はヤスデによる摂食量(落ち葉と表層土壌の合計値)を増加させることが分かった。 摂食量の増加は、土壌中の無機態窒素量の増加へ繋がっていた。また、気温上昇によって落ち葉を食べる量は増加したヤスデ種がいた一方で、落ち葉ではなく土壌を頻繁に食べるようになるヤスデ種が見られるなど、気温上昇に対する摂食対象の変化が見られた。気温上昇時に摂食量が増加した種は元々表層土壌を好んで食べる種である事が知られている。また、林床に堆積するリターの量は、林床における物質循環や樹木の更新等、樹木群集の一次生産力に関わる重要な要因である。本研究の結果より、気温上昇が土壌-植物系の一次生産へ及ぼす影響を理解するためには、生育する大型土壌動物の食性などの生活史が重要であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
気温上昇が土壌-樹木系の窒素循環へ及ぼす影響とそのメカニズムについて、室内実験により明らかにする事ができた。一方、国内で予定していた野外操作実験に関して、調査地の選定が図面上と違う、許可申請等の手続きが滞る等の理由により十分に進める事ができなかったため、やや遅れていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に予備調査や許可手続きに関する事前準備を進めた八甲田山、富士山の標高別試験地において当初から予定していた操作実験を実施する。また、初年度に室内実験で示唆された「生育する大型土壌動物の種により気温上昇が土壌-樹木系へ及ぼす影響の違い」が、実際の森林においても起こっているのかについても、異なる標高に生育する同一ヤスデ種の窒素・炭素の安定同位体比の違いを調べる事で解明したい。
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Research Products
(5 results)