2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J03264
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
田中 友香理 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 加藤弘之 / 明治憲法体制 / 社会進化論 / 元老院 / 人権新説 / 国家主義 / 東京大学 / 天則 |
Research Abstract |
本研究は、幕末~大正初期において、初代東京大学綜理であり、「転向」の学者として知られる加藤弘之の思想を明治国家体制との連関のなかで解明し、近代日本における国家主義思想の歴史的意義を考察することを目的としたものである。具体的な課題としては、第一に、加藤の言動を政治史的文脈に還元し、彼の国家主義思想を再評価し、それを通して明治国家像を再構築することが挙げられる。第二の課題は、加藤の知的基盤である東京大学に着目し、加藤の思想との相互作用を明らかにし、それを通して近代日本における知識人としてあり方をアカデミズムの成立と関連させて提示することである(第三の課題は後述)。以上の課題を、平成23年12月に提出した修論「明治国家形成期における加藤弘之の思想」(歴史・人類学専攻内で優秀論文賞受賞)で掲げ、解決を試みた。 その後、平成24年3月に発表した拙稿「『人権新説』以後の加藤弘之」では、第一の課題の解決に特化し、彼の国家思想を明治20年代の政治史に位置づけた。本論文は、停滞していた「転向」後の加藤研究の新地平を切り開くものであった。この成果を受けて、同年10月に「雑誌『天則』に見る加藤弘之の思想」を口頭発表した。本発表では、とくに第二の課題の解決を試み、明治20年代を中心として加藤が主宰した雑誌『天則』の誌面分析を行うとともに、井上円了や三宅雪嶺ら東京大学関係者を中心とした人脈分析を行い、日清戦争に至るまでの加藤の思想形成がいかなるものであったのかを明らかにした。東京大学の卒業生らが結集したメディア雑誌『天則』を分析の対象としたことで、明治20年代のアカデミズムにおける加藤の思想の位置づけを考察できた。本発表は、現在、論文として作成段階にある。 なお、24年度は、並行して史料調査を行った。具体的には、国立国会図書館、国立公文書館、加藤の生地である兵庫県豊岡市出石町や京都大学大学文書館等に赴き、成果を挙げた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述した第一の課題、第二の課題は、解決するための論文作成、口頭発表を済ませた。第三の課題は、最晩年の著作『国家の統治権』等で展開された「族父統治論」にいたる思想形成の過程を明らかにし、幕末~大正初期における近代日本の国家主義思想を俯瞰することであり、今後は早急にこの課題に取り組みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は、まず「雑誌『天則』に見る加藤弘之の思想」を論文として発表する。さらに、上述したように第三の課題に取り組むとともに、上記の成果を含めた博士論文を執筆したいと考えている。現在まで、加藤弘之における国家主義思想の形成過程を考究してきたが、そのなかで、彼の思想の最も基底的な部分を構成する進化論を解明することこそ、加藤の個人研究のみならず近代日本思想史の研究にとって必須であるという考えに至った。そこで、博士論文では、加藤の国家主義思想の重要な原理であるとともに、近代日本思想史において重要な位置を占める進化論に着目し、新たな近代日本思想史を描きたいと考えている。
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Research Products
(3 results)