2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J03264
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
田中 友香理 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 加藤弘之 / 明治憲法体制 / 進化論 / 国家主義 / 東京大学 / 優勝劣敗 / 国粋保存主義 / 天則 |
Research Abstract |
本研究は、明治期における「転向」の学者として知られる加藤弘之の国家主義思想を解明することで「明治国家の思想」の形成―変容過程を明らかにし、新たな明治国家像を提示するものである。加藤弘之は、初代東京大学綜理、教科書調査会会長等を歴任し生涯にわたって文部行政の枢要な地位に在り続け、また元老院議官、貴族院議員として明治国家の形成を担った重要な人物の一人である。それだけでなく、天賦人権論者から「優勝劣敗」の思想家へ転じた「転向」の学者としても知られ、近代日本思想史を解明する上でも重要な人物である。そのような人物の国家主義思想の究明することで、明治国家とは何であったかという問いに一つの答えを提示できるといえよう。 本研究の具体的な課題は、第一に、加藤の言動を政治史的文脈に還元して同時代的位置づけを明らかにすること、第二に、加藤の知的基盤である東京大学(書生社会)に着目しその知的環境を分析すること、第三に、加藤の国家主義思想の根幹にあった「進化論」を解明し、初期の立憲政体論から最晩年の「族父統治論」にいたる思想形成の過程を明らかにすることである。昨年度は多角的手法を用いて上記の課題を解決した。第一の課題に関して、貴族院会議における民法、条約改正論等に関する審議を分析し加藤の政治的立場を摘出した(現在執筆中)。第二の課題に関して論文「雑誌『天則』に見る加藤弘之の思想」(投稿中)において、加藤が主宰した雑誌『天則』の誌面をメディア史的手法によって分析し、書生社会における思想の「横」の広がりを把握し、明治憲法制定から日清戦争までの「進化論」と「日本主義」の関係を考察することができた。第三に、論文「加藤弘之における「追遠碑」建設と「神之遺徳」」で、地方史的視点から加藤の「進化論」思想が大正期においていかに変容し「族父統治」論を形成したかを明らかにした。これらの研究を通して博士論文執筆の準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三点の課題に関しては、昨年度までにおおむねその解決を試みることができた。ただし、第一の課題に関しては現在論文を執筆中である。また第三の課題に関しては、地域史的視点から明らかにしたのみであり、著作分析が急がれる。また、博士論文に関しては、その構想を「明治国家と社会進化論」として研究会で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、第一の課題に関して貴族院議員としての発言の分析を行うとともに、第三の課題に関して、著作分析だけでなく、同時代の幸徳秋水や北一輝といった「進化論」と「国体」を論じた思想家との比較も必要であろう。今年度は、このような課題に加え、「進化論」的見地から見た明治国家における臣民像、天皇像を明らかにしたい。また、これらの成果を総括するかたちで博士論文を執筆する。博士論文では、加藤弘之における「進化論」とそれを基底とした国家主義思想の全体像を、同時代の進化論者(井上円了、有賀長雄、穂積陳重ら)の国家思想との比較するなかで再構築し、明治国家のいかなる部分を支えたのかを明らかにしたい。
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