2013 Fiscal Year Annual Research Report
中国近代文学成立期における白話の社会的位置とその変容
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12J03583
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福嶋 亮大 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 中国 / 文学 / ナショナリズム |
Research Abstract |
本年度はもっぱら中国と日本の接触面において、文化のダイナミズムを理論的に考察するという研究に取り組み、その成果を著作として発表した。古代から近代に到るまでの東アジアの文化的創造の原理を概観しつつ、日本のモダニティの成立に中国の白話文学の財産がいかに干渉したかを描き出すことによって、中国文学が社会的現実に変換されるその局面を炙り出すことを試みた。 とりわけ、近年の中国文学の学界では「遺民」についての研究が盛んになっており、中国の思想/文学についての重要な知見を提供しているが、私はその学術的蓄積を踏まえつつ、中国の遺民あるいは遺民文学がいかに東アジアのナショナリズムの母体となったかを論じた。例えば、白話小説『水滸後伝』は一種の遺民文学として曲亭馬琴の『椿説弓張月』の原案となっている。この種の事例を論じることによって、政治的イデオロギーとしてのナショナリズムだけではなく、文学的/存在論的レベルでのナショナリズムを解明することを目指した。 私はすでに博士課程以来、近世中国の白話文学がいかなる論理に基づいて近代中国の国語に変換されたかに着目し、いわばモダニティの原資としての白話文学を研究対象としてきた。本年度においてもその問題意識を継続しながら、そのさらなる展開として『水滸伝』以来の白話文学がいかに日本のモダニティに関与したかにまで研究対象を拡張した。それによって、ナショナリズムを含む文化的/政治的課題について東アジアの視点からより多面的・複眼的に考察することができたと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は中国の白話文学の内在的な研究に加えて、その日本への展開という一層広域的な研究にも本格的に着手し、その成果を公刊するところにまで到達することができた。研究は順調に進んでおり、大きな問題はないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
中国の白話文学についての研究資料を英語文献も含めて詳細に読み込んでいくとともに、セクシュアリティやジェンダーに関する文学上の問題についても理論的考察に織り込むことを目指す。さらに、中国文学と日本文学の接合面を際立たせるために、ジャンル論的な視座を導入することを試みる。とりわけ、近世から近代に移行する際に、日本の文学論が近世の演劇的な資源をどのように扱ったのかという問題設定の下で、日中のあいだの隠された文化的接点を洗い出すことに取り組んでいく。
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Research Products
(3 results)