2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J03594
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Research Institution | Hanazono University |
Principal Investigator |
八尾 史 花園大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 根本説一切有部律 / 雑事 / 薬事 / 破僧事 / ギルギット写本 / 「薬事」新出サンスクリット写本 / 阿含経典 / 律蔵 |
Research Abstract |
本研究の目的は、失われた根本説一切有部の〈経蔵〉(阿含経典)の実態を、現存する〈律蔵〉を通じて解明すること、また根本説一切有部の聖典成立過程における〈経蔵〉と〈律蔵〉の関係を解明することである。本研究は直接には〈律蔵〉の中の「雑事」という章の解明を課題とするが、近年『根本説一切有部律』のサンスクリット語写本をめぐる研究状況は飛躍的に進展しつつあり、これに関して筆者は二つの重要な写本資料の調査許可を得ることができたため、24年度より「雑事」のみに限定することなく、写本が利用可能となった「律事」の各章をも含めて研究を行っている。25年度もこれにひきつづき、「破僧事」「薬事」という二つの章に関する写本研究を進めた。 まずナポリ東洋大学が所蔵する「破僧事 Saṅghabhedavastu」サンスクリット語写本の未公開電子画像にもとづき、同写本の解読およびチベット語訳、漢訳との比較対照をおこなうとともに、従来本にかわる正確なローマ字転写テクストの作成を行った。 また、近年パキスタンにおいて発見された「薬事 Bhaiṣajyavastu」のサンスクリット語写本断片群について、同写本の未公開電子画像をもとにローマ字転写テクストの作成と平行資料との比較作業を進めた。「破僧事」「薬事」はともに〈経蔵〉と共通の記述を大量に含むことで知られる章であり、これらの記述内容についてサンスクリット語写本の提供する新たな情報を数多く得られたことは、本研究の目的にとってきわめて貴重であった。 さらに「雑事」にみられる尼僧の出家受戒に関する説話と、他部派の律文献および律以外の文献の比較研究をおこない、"The Story of Dharmadinnā : Ordination by Messenger in the Mūlasarvāstivāda-vinaya"と題して雑誌論文にまとめた。これは近くIndo-Iranian Journal誌の査読を受ける予定である。これは〈律蔵〉における説話と経典のありかたについて『根本説一切有部律』の特異性をあきらかにしたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新発見「薬事」サンスクリット語写本の利用により、チベット語訳、漢訳との関係などに関してきわめて重要な事実をあきらかにしえた。また「破僧事」サンスクリット写本からのローマ字転写テクスト作成も順調に進行中である。さらに、「雑事」に関しては『根本説一切有部律』以外の文献との比較を通して、文献内における説話の保存状況の詳細があきらかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、24、25年度に進めた「薬事」サンスクリット語新出写本に関する研究を、ローマ字転写テクストを中心に平行諸文献との比較を含めて完成し、英語論文として発表する。また「破僧事」のサンスクリット語写本にもとづくローマ字転写テクストを完成する。この過程で、特にこれまで包括的には論じられていなかった「破僧事」における〈経典〉と〈律蔵〉の関係を、サンスクリット、チベット語訳、漢訳の三本のテクストをもとに解明する。
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