2013 Fiscal Year Annual Research Report
中世・近世史料に基づく地方能楽史の研究--四国・九州地方を中心に--
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12J03643
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
青柳 有利子 法政大学, 能楽研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 能楽史 / 近世 / 金沢 / 宇和島 / 対馬 / 藩 |
Research Abstract |
前年と同様に、能楽関連記事の収集と中近世能楽界の実態解明を目的として、各地の資料を調査した。 対象は以下の通りである。 1, 金沢市立玉川図書館 近世史料館加越能文庫・藤本文庫 : 加賀藩で収集された能番組・由緒書・能の舞台図・仕舞附・太鼓伝書をはじめとする貴重書60点。『御能番付帳』『加賀守様老中へ御成記』『太鼓習伝授』等。 2, 宇和島伊達文化保存会 : 宇和島藩で記録された能番組や享保年間の日記・書状など101点107冊。『三輪』『能銘細書』『鼓筒作書』『能絵鑑』等。 3, 長崎県立対馬歴史民俗資料館 : 能番組・謡本・囃子手付・神事能の記録など、対馬藩で記録された能楽の記録166点、日記57冊。『御能并御名代』『御能組』『本家弁(免許皆伝ニ付覚)』『書状(大守様御稽古ニ付/日吉平兵衛)』等。対馬藩江戸藩邸の記録である『江戸藩邸毎日記』(マイクロフィルム閲覧)。 4, 法政大学能楽研究所所蔵の資料や、県史・市史・史料集等。 収集した資料から、次のことが明らかとなった。 【宇和島藩】 ・元和四年(1618)に抱えられていた田中藤右衛門ほか5名の能役者の氏名。 ・享保二十年(1735)頃に家老の桜田家当主が大坂で歌舞伎や能を好んで鑑賞したこと。 ・文政十二年(1829)に小鼓方大倉流宗家・大倉長右衛門が宇和島伊達家所持の小鼓鑑定に関与したこと。 【対馬藩】 ・寛永~承応期(1624~1654)にシテ方金春流別家の金春八左衛門を後援したが、明暦(1655)頃より喜多流に転向し、天保~嘉永期(1830~1848)には宝生流を晶屓したこと。 ・天保年間には日吉平兵衛(宝生流)が藩主の能指南役を務めたこと。 ・藩のシテ方は秋山左源太(喜多十大夫弟子)・村江半弥(同前)・山田市十郎等が活躍したこと。 ・元禄期に免状の取得が奨励されたこと。 上記は研究成果の一部である。こうした事例を集積し俯瞰することによって、地方諸藩のみならず中央能界の歴史的経緯もより詳しく把握できるようになると予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで未紹介だった資料の調査・収集が着実に進んでおり、とくに対馬藩に関して成果が得られているため。
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Strategy for Future Research Activity |
【問題点】 地域により資料の残存状況が異なり、例えば藩政史研究の基礎資料である日記ひとつとっても記述内容に精粗があるため、対象とした地域すべてで期待通りの成果があがっているとは言えない点が課題と言える。 【対応策】 本研究の最終年度である平成26年度は、そうした資料的限界を踏まえ、調査対象として特に重要と思われる地域を重点的に調べることとする。具体的には、能楽の記録が多い対馬藩『江戸藩邸毎日記』の通覧を目指すとともに、尾張藩・熊本藩・鹿児島藩などの未見文書についても調査を進展させる。
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