2012 Fiscal Year Annual Research Report
多バンド遍歴電子系の輸送特性におけるスピン自由度と軌道自由度の役割の解明
Project/Area Number |
12J03649
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉本 高大 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 多軌道電子系 / 反強磁性 / クロム / 共鳴非弾性X線散乱 / 鉄系超伝導 / 電気伝導度 / 不純物散乱 / 反強磁性 |
Research Abstract |
本年度の前半は、多バンド遍歴電子系の物質として単体クロムを扱った。単体クロムは反強磁性スピン密度波を起こす物質としてよく知られている。多バンド電子系の反強磁性相について研究する上で、実験的に物性がよく研究されているクロムを理論の側面から知ることはきわめて重要である。最初にクロムの価電子帯にある3d軌道と4s軌道を全て取り入れた多軌道ババード模型を導入した。乱雑位相近似を用いてスピンおよび電荷の動的感受率を計算し、集団モードが得られることを確認した。得られた結果を用いて共鳴非弾性X線散乱(RIXS)のスペクトルの計算を行った。この結果、従来では集団モードを見るには中性子散乱を使うのが主流であったが、RIXSでも集団モードが観測可能であることが判明した。しかし、系が多バンドであるために電子-ホール励起が集団モードに覆い被さるような形で存在して、相対的な集団モードの強度は弱く、注意深く観測しなければならないことも分かった。 本年度の後半は、鉄ヒ素系超伝導体の母物質における電気伝導度の異方性に関する計算を行った。母物質ではスピンがストライプ状に反強磁性オーダーし、反強磁性方向の伝導度が強磁性方向の伝導度よりも大きくなることが実験的に確認されているが、この理由については未だに議論が続いている。本研究ではメモリー関数法を用い、単一軌道のみしか扱えなかったものを多軌道でも計算できるように拡張した。鉄系超伝導体では超伝導の発現のためにキャリアをドープする必要があり、このために鉄原子をコバルト原子に置換する。このコバルト原子を不純物と考え、実際に鉄系超伝導体反強磁性相で不純物のポテンシャル散乱を考えた場合の計算を行った。その結果、反強磁性相にバンドの折りたたみによって出現するディラックコーンでの散乱が大きく寄与していることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、クロムの共鳴非弾性X線散乱スペクトルに関する研究は完了し、その成果は平成25年4月に学術論文誌にて出版された。また、鉄系超伝導体の伝導度の異方性に関する研究は、予定通りに計算手法の習得と数値計算コードの作成が完了しているが、まだ異方性の物理的背景に迫る段階には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では引き続きメモリー関数法により鉄系超伝導体の電気伝導度の異方性について取り組む。本年度はポテンシャル散乱のみを考えたが、異なる散乱プロセスでの伝導度の異方性についても計算を行う。そして、その解析結果から異方性の裏にある物理的背景を明らかにする。以上の解析はゼロ温度の範囲で行うが、次の段階として数値計算コードを有限温度の範囲に拡張する。伝導度の非フェルミ流体的な温度依存性や、相転移点近傍での特異的な振る舞いに関しての解析を行う。
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Research Products
(8 results)