2013 Fiscal Year Annual Research Report
多バンド遍歴電子系の輸送特性におけるスピン自由度と軌道自由度の役割の解明
Project/Area Number |
12J03649
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉本 高大 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 鉄系超伝導体 / 反強磁性相 / 電気伝導度 / 不純物散乱 / ディラックコーン / メモリー関数 |
Research Abstract |
本年度は前年度の後半から継続して鉄系超伝導体の反強磁性相における電気抵抗の異方性に関する研究を行った。ネール温度以下では正方格子状に並ぶ鉄原子上の電子のスピン配列が、一方向で反強磁性的であるがもう一方向は強磁性的と異方的に並ぶことが知られていて、理論的にもそのような状態が発現しやすいことも分かっている。 電気抵抗の理論的な解析に当たって、メモリー関数を用いた解析を採用した。この手法は抵抗の計算に不可欠な不純物散乱の項を簡単に計算に取り入れることができる点で優れている。自由電子ガスではボルツマン方程式や久保公式のバーテックス補正で得られる結果と一致するので、鉄系超伝導体で使われる5軌道タイトバインディング模型でも正しく電気抵抗を評価することが可能と予測される。 本研究において、従来から知られていたメモリー関数の自由電子ガスにおける定式化を適切な形で多軌道電子系に拡張することに成功した。拡張されたメモリー関数を元に電気抵抗を計算するプログラムを作成し、数値計算を行った。何もキャリアをドープしていない場合において、反強磁性相のフェルミ面はブリルアンゾーンの原点にホール面、その周りを取り囲むように上下に電子面、左右にディラックコーンを起源とするディラック面が存在するが、電気抵抗の異方性にはこれらの電子面とディラック面が関与することがわかった。反強磁性方向の電流を流した場合はディラック面で電子が強く散乱される一方で、強磁性方向の電流では電子面で強く散乱される。電子面がディラツク面よりも大きいため、電子面で散乱される電子が多く、強磁性方向の電気抵抗が大きくなる傾向にある。ホールをドープすると電子面が消え、ディラック面は残る。電子面による散乱がなくなるので電気抵抗の異方性が逆転することが示され、実験と一致する結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、メモリー関数の多バンド系への拡張を行い、鉄系超伝導体反強磁性相における電気抵抗の異方性に関する計算を行うことができた。この成果は現在、学術誌に投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度は電気抵抗の計算を推進させたが、今後は熱に関する輸送係数であるゼーベック係数やネルンスト係数に関する研究を行う。ポルツマン方程式に基づく輸送現象の理論から出発し、磁気秩序や多バンドを考慮したより一般的な輸送係数の定式化について試み、実際の数値計算を行ってその妥当性を議論する。多バンド系の熱、電荷の輸送係数に関して統一的な理解につなげたい。
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Research Products
(10 results)