2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J03680
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
工藤 彰 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | テキスト分析 / 計量分析 / 村上春樹 / 物語構造 |
Research Abstract |
目的の一点目は、一貫性・網羅性のある物語理解の方法を確立すること、また二点目は、並行形式小説のモデル化を行うことである。これまで定量的手法を用いた物語構造の解釈はこれまで少なかったが、本研究では因子分析や変化率分析を行い,多くの小説に同一の観点から分析可能な手法の確立を目指した.また研究対象には、現代日本文学を代表する作家村上春樹を扱った。情報知識学会誌に掲載された「共通語の付置と変化に基づく並行形式小説の物語構造」では、『1Q84』の各章を1まとまり単位として、2つの物語(青豆と天吾という主人公による2つの物語)の共通語とその出現傾向を比較した。主たる結果として、因子分析から青豆と天吾の物語およびBOOKl、2とBOOK3をつなぐ特徴、変化率分析から物語進行にしたがった共通性、青豆のBOOK3後半での特徴、2人の登場人物の対称的構造などが得られた。そのうち、青豆と天吾の物語およびBOOK1、2とBOOK3をつなぐ特徴と、青豆のBOOK3後半での特徴の考察では、文芸批評の指摘と比較し、それらを実証的に裏付けるような単語を具体的に示した。また、2人の登場人物の対称的構造の考察では、オウム真理教信者と被害者インタビューの経験が多角的な視点の構成に関与していると考えられることを指摘した。また『1Q84』の奇数章と偶数章に文章の長さの偏りが見られたため、登場人物の会話文に焦点を当て解析をすすめ、Japanese Association for Digital Humanities 2012でポスター発表「Quantitative analysis of style change and conversational sentence within the works of contemporary novel writer」を行い、『IQ84』BOOK1の主要人物の発話特徴から3つのクラスターが得られたことを報告した。具体的に、第1のクラスターが2人の主人公に仕事を依頼する人物、第2のクラスターが主人公、第3のクラスターが主人公と同じ目的をもった支援者の集まったクラスターだと考えられ、これらはGreimasの行為項モデル(送り手、主体、支援者)に対応し、物語論的に類型クラスターに属する人物はセンテンスの特徴が近いという仮説が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的だった、一貫性・網羅性のある分析手法に基づいた物語理解の確立、および、並行形式を有した小説に内在する構造のモデル化は十分達成できたと考えられる。具体的には、テキストの定量的手法による物語解釈の有効性の検証や、読み手が容易に認知できない奇数章と偶数章で語り手が交代する複雑な物語構造の可視化を、論文「共通語の布置と変化に基づく並行形式小説の物語構造」にまとめ、研究成果を発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまでの村上春樹の研究活動では、伝統的な文学研究ではなく、自然言語処理の方法論と観点を重視し、「形態素」を最小のユニットとして捉えて、その作品ごとの定量性によって特徴を決定してきた。しかし、その形態素というユニットや、形態素をベースにした品詞や意味分類のパラメーターは、確かに文学作品の読解に有効であったものの、無限に近いパラメーターの中で、最適なパラメーターであったかはいまだ不明瞭だといえる。そこで、今後はそのユニット範囲およびパラメーターを特定し直す必要があると考えている。現在は、作家のオンラインの創作過程を観察し、書き直しや入れ替えのある箇所、また時間をかけて書かれる単語・フレーズ・文章を抽出し、作家が重要視しているユニットやパラメーターの特定、さらにはメカニズムの発見を目指している。
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Research Products
(2 results)