2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J03680
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
工藤 彰 東京大学, 大学院教育学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 物語構造 / 物語理解 / テキスト解析 / 村上春樹 |
Research Abstract |
本研究が掲げる目的の一点目は, 従来の文学研究の方法を再考し, 一貫性と網羅性のある物語理解のアプローチを考案すること, 二点目は奇数章と偶数章で主人公が入れ替わる形式の小説(以下「並行形式小説」と呼ぶ)のモデル化をおこなうことだった. これまで定量的な手法を用いた物語構造の分析は少なかったが, 本研究では因子分析や変化率分析をおこない, タイムラインに沿った物語の特徴を抽出・可視化するための方法を検討した. 研究対象には現代日本を代表する作家, 村上春樹を取り上げ, 当時の村上としては最新かつ最長の並行形式小説『1Q84』を電子データ化し, テキスト解析をおこなった. これを扱う意義として, 詩や短編小説と異なり, 長編小説は定量的な観点から十分なデータ量が確保できるため, 分析指標を得やすく, 一般的な物語に内包される特徴を分析する際の仮説がたてやすいことがあげられる. 同時に, 今後物語に関連した定量的文芸テキスト分析をおこなう際の指針になりうると判断した. また現在の日本では, 文芸書籍も電子書籍化が試行されている真っ只中にあり, 紙から電子への緩やかな過渡期にあるといえるかもしれない. 今後, 電子化された文芸書を研究データに活用すべく, 小説の大規模データ分析や汎用的アプローチを模索し, 改めてその可能性や限界を示すことは, 文学研究あるいはテキストマイニングなどの関連分野からみても重要だと思われる. 平成25年度は東京工業大学のランチョンセミナー「文学研究のBプラン」, また東京大学ブラウンバック「文芸テキストを解析する : 作風変化と物語構造」でこれらの内容を発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の最終年度であったが, 当初の研究目的は達成できたと言える. 一貫性のある物語分析の方法また並行形式構造のモデル化について, 従来軽視されがちだった手続きの再現可能性を明確に記述し, 今後の対象間比較を主眼においた研究につながる道筋を示した.
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Strategy for Future Research Activity |
(本研究課題の最終年度)今後は「文芸テキスト解析」という研究分野の強みを発揮できるような, ケーススタディ的ではない大局的な視野に立った問題設定が必要である. たとえば, 私小説, 恋愛小説, SF, ミステリーなどのジャンルを区分けする物語構造の特徴や, 時代ごとに見た文体やテーマの変遷は――現状, データの確保が難しいという問題はあるにせよ――定量的に示す価値のある展望だと言える.
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Research Products
(2 results)