2012 Fiscal Year Annual Research Report
イスラームの霊魂論における実践哲学-ワリーウッラーの改革思想より-
Project/Area Number |
12J03763
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石田 友梨 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | イスラーム思想史 / 18世紀 / 南アジア / インド・ムスリム |
Research Abstract |
本研究の目的は、イスラームにおける霊魂論が、倫理規範から社会改革までを含む実践哲学であることを示すことである。そのために、ムスリム(イスラーム教徒)の倫理規範の向上を通じた社会改革を唱えた18世紀南アジアの思想家ワリーウッラーを研究対象とする。倫理規範を説くスーフィズムの霊魂論と、改革思想の基盤となる政治社会論を説いたワリーウラーの著作を分析することにより、両者が共通の倫理を掲げる実践哲学として捉えることが可能であり、個人の霊魂を高めることが社会全体の改善に結びついていることを明らかにすることを目指す。 具体的には、スーフィズムの霊魂論に関連する著作として『神の諸指示(Al-Tafhimat al-Ilahiya)』の分析と、政治社会論に関する著作として『神の究極の明証(Hujja Allah al-Baligha)』の分析を中心に行い、その成果を学会においてそれぞれ発表した。 『神の諸指示(Al-Tafhimat al-Ilahiya)』の研究成果として以下の二点が挙げられる。写本調査に基づき、三段階ではなく二段階の霊魂の階梯が想定されていたことを明らかにし、先行研究を批判した。また、ワリーウッラーが自らの霊魂論を形成するまでの過程に注目し、師弟関係や学んだ書物を自伝から明らかにすることで、18世紀南アジアのムスリムの知の伝達を明らかにできることを指摘した。 『神の究極の明証(Hujja Allah al-Baligha)』の研究成果として、以下の点が挙げられる。従来、ワリーウッラーの説では、"原始社会→都市→帝国→ムスリム社会"へと四段階で社会が発展するとされていた。しかし、ムスリム以外の支配者が治める社会を容認する記述が原典にあることを発見した。このことから、ヒンドゥー教徒が多数派を占める18世紀当時の南アジアにあり、ワリーウッラーは異なる宗教共同体の共存する社会を想定しており、ワリーウッラーの信奉者を自任する現代のイスラーム改革運動家がもつ排他的理想社会像と差異があることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
写本や刊本の入手が困難であったことから、当初分析を予定していた著作をいくつか諦めざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
『神の諸指示(Al-Tafhimdtal-Ilahiya)』と『神の究極の明証(Hujja Allah al-Baligha)』という二つの著作の記述を比較し、倫理規範が概ね一致していること確認している。今後は、個人の倫理実践から社会倫理の向上へと向かう各段階と、各段階の詳細について明らかにしていく。これにより、従来別個に考えられていたワリーウッラーの霊魂論と政治社会論を実践哲学として統合し、理解できることを示す。
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Research Products
(7 results)