2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J03912
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
萓野 智彦 山口大学, 大学院・連合獣医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 感覚ニューロン / 神経成長因子 / パッチクランプ法 / Na'チャネル |
Research Abstract |
神経成長因子(以下NGF)は神経因性疼痛の発症に関与するとメディエーターの一つであると考えられている。これまでに我々は正常ラットから分離した感覚ニューロンは、NGF存在下で培養すると自発的な活動電位を発生することを報告している。この現象はNGF存在下で培養した感覚ニューロンでのみ記録されることから、NGFが細胞膜の興奮性を変化させることによって生じていると考えられている。そこでパッチクランプ法を用い、この自発的な活動電位の発生の基盤となっているイオン機構の解明を試みた。 NGF存在下で培養した細胞をセルアタッチモードで電位固定し、自発的な活動電位発生の頻度を記録した。その後、ホールセルモードで-60mVに電位固定し保持電流の測定を行ったところ、内向きの保持電流が観察された。セルアタッチモードにおいて活動電位を0.2Hz以上の頻度で発生した細胞は、0.2Hz未満であった細胞に比べ、ホールセルモードでの内向き保持電流の振幅が有意に大きかった。 このことから自発的な活動電位発生がみられた細胞では、内向きの保持電流の原因となるコンダクタンスが高いために膜電位が脱分極し、活動電位が誘発されていることが示唆された。細胞外Na^+濃度を減少させ、Na^+の駆動力を小さくすると内向きの保持電流は減少した。この結果から、-60mVでの膜電位固定状態における内向きの保持電流はNa^+流入によるものであることが示唆された。さらに細胞外のNa^+濃度の上昇に伴いNa^+コンダクタンスが上昇することも確認された。 NGFの慢性処置により、細胞外のNa^+により活性化されるNa^+コンダクタンスを有するチャネルの発現が促進され、このチャネルを介したNa^+の流入が細胞膜の脱分極を引き起こし、自発的な活動電位を誘発することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、NGF存在下で培養した感覚ニューロンで記録される自発的な活動電位発生の基盤になっていると考えられるイオン機構の一部を示した実験である。NGFの慢性処置により自発的な活動電位発生がみられた細胞では、内向きの保持電流の原因となるコンダクタンスが高いために膜電位が脱分極し、活動電位が誘発されていること、また内向きの保持電流の形成にはNa^+が関与していることが示された。以上の結果より、NGFの慢性処置によりNa^+コンダクタンスを有するチャネルの発現が促進されることが示唆された。この結果は、NGFによって生じるDRGニューロンの自発性活動電位の発生機序を説明する手がかりとなるものであり、極めて重要な進展と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験から、感覚ニューロンにおいてNGFの慢性処置はNa^+コンダクタンスを有するチャネルの発現を促進し、自発的な活動電位を誘発することが示唆された。しかし、NGFによりNa^+コンダクタンスが増加した分子実体を明らかにできていない。今後、分子生物学的手法も用いて、この分子実体を明らかにする予定である。さらにNa^+以外のイオンのコンダクタンスに変化がないかを検討する必要がある。また、NGFによる感覚ニューロンの特性変化と個体レベルでの痛覚感受性増大との関連性を明らかにするため、NGFを用いた新規神経因性疼痛モデルラットの作出も試みる。
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Research Products
(5 results)