2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J04010
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
新川 拓哉 北海道大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 素朴実在論 / 幻覚 / 知覚の哲学 / 現象的特性 / 国際情報交換 / イギリス |
Research Abstract |
本年度の研究では、私は主に以下の二つのことを論じてきた。(1)幻覚に陥っている主体には何かが現れているようにみえるが、実際には何も(イメージであれ何であれ)現れていない。(2)真正な知覚経験において、意識のなかに現れてくるものは、世界に実在する物理的対象とその性質である。以下では、これらの2点に関する成果を詳述する。 (1)幻覚において、経験主体は確かに「私の目の前にリンゴのような何かが現れている」と判断する。しかし、(実在するリンゴではない)リンゴのような何かが主体に現れているということを認めると、その何かがいったいどのような存在者なのかという問いが生じる。とりわけ、そのような存在者は物理主義的な世界観のなかにうまく位置づけられないと考えられる。そこで私は、「そのような判断が実際には偽であり、彼には何も現れていない」立場を整合的な仕方で認められるような哲学的幻覚理論を構築しようと試みた。その結果、私たちが自分自身の心的状態について知るときに用いる内観能力をどう捉えるかが、そのような理論の鍵となることが判明した。内観能力はいまだ認知科学でも探求の進んでいない分野であり、私の研究はより具体的な認知科学的研究に対する概念的基礎研究となる可能性がある。 (2)真正な知覚経験において、意識に現れてくる対象が世界に実在する物理的対象であるとする動機は主に2種類ある。(1)直示的指示や直示的思考の可能性を確保できる唯一の理論である。(2)現象的特性と物理的世界のあいだの説明的ギャップを閉じることができる唯一の理論である。私は、(1)を洗練させることによって、また、(2)を「そのギャップをもっとも存在論的に倹約的な仕方で無害化することのできる理論である」と改定することによって、この立場を推進する強い理論的動機があることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究はイギリスを拠点として行われており、そこでの英語での議論のやり取りや論文執筆に思った以上に手間取ってしまったことが研究の遅れの主要な原因である。研究の内容は順調に進んでいるので、来年度はより多くの論文投稿や学会発表が期待できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、より一層学会発表や論文投稿の数を増やしていきたい。なお、英語を母国語としない研究者であるためのデメリットは数多くあるが(学会での意見交換がスムーズにできなかったり、論文執筆にかなりの時間がかかるなど)、ネイティブチェックなどを積極的に使うことによって克服していきたい。研究の進展は当初の予定に追いつきつつある。とりわけ、来年度の前半期は多くの学会発表の予定(ギリシャ・イギリスなど)があるので、多くの成果が期待できる。
|