2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J04198
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高麗 雄介 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 宇宙論 / 場の量子論 |
Research Abstract |
本研究課題の目標は、インフレーション宇宙で生成される密度ゆらぎの量子相関の従来の計算方法における定量性の向上、およびde Sitter時空の量子的安定性の解析であった。2012年度は前者の定式化を精密に行い、従来の計算方法の妥当性を確立した。そして、それが後者に与える重要な示唆について考察した。2013年度は、de Sitter時空の量子的安定性を中心に研究を進めた。特に、重要であると考えられているde Sitter時空上の質量を持たないスカラー場の解明に向けて、2012年度に出版した論文[Y. Korai and T. Tanaka (2013)]をその重要な布石と位置付け研究に取り組んだ。 この研究の第一歩は安定なユークリッド真空を定義することから始まるが、考察を進めるにつれ、質量を持たないスカラー場の理論ではそもそもそれを定義すること自体に困難があることが分かってきた。その問題は、de Sitter時空上の質量を持たない量子場の特質、すなわち自由場の相関が一般に長距離極限で減衰しないという性質に由来する。そこで私は、研究を迅速に前進させるために、先行研究の中心であるIan A. Morrison氏(現 McGill 大学、前 Cambridge 大学)およびAtsushi Higuchi氏(York 大学)を訪問し、活発に議論した。特に前者は、私も重要であると考えるde Sitter時空上の量子状態の安定性という性質について顕著な業績がある第一人者である。彼との議論により、技術的な困難を解決する道が開けつつあり、さらに、もし安定なユークリッド真空が定義されればそれが16真空(従来の計算で用いられてきた真空)と一致することは、我々の論文(前掲)によって自明であるという認識を共有できたが、これは今後の研究にとって不可欠の進展であると考える。Higuchi氏との議論においても、当時発表前の数学的技術を学び研究の遂行に大いに役立った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年度はグラビトンのモデルとして、de Sitter時空上の質敏を持たない量子場の性質解明を目指して研究してきた。その結果、実に多くの困難があることがわかったため、それを一つずつ解決する必要があった。学術論文の発表に至らなかった点は不満ではあるが、その困難を徐々に取り除いていき、解決の道筋が立ちつつある点で、本研究計画は順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の質量を持たないスカラー場の性質、特にユークリッド真空のクラスター性の成否を徹底的に解明しなければならないと考えている。これはグラビトンと構造が似ているので、このスカラー場の研究が完成すれば、もしあまり大すぎるような困難を伴わなければ、そのままグラビトンに適用できると考えられる。これは上述のIan A. Morrison氏も同意見であった。これはde Sitter時空の安定性の議論に不可欠である。 具体的な手順としては、まずtreeレベルで理論を徹底的に調ベ上げ、性質を抽出し、その後loop補正を考察する。また、必要があればIan A. Morrison氏などと詳細に議論することも考えている。
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