2012 Fiscal Year Annual Research Report
トリチウム増殖材料中でのトリチウム移行素過程の解明とその体系化に関する研究
Project/Area Number |
12J04207
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
小林 真 静岡大学, 創造科学技術大学院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | トリチウム / Li_2TiO_3 / 拡散 / 昇温脱離法 / 原子空孔 |
Research Abstract |
今年度はチタン酸リチウム構造の乱れがトリチウム移行過程に及ぼす影響を明らかにするため、中性子照射フルエンスを4桁変化させたチタン酸リチウムを用意し、He雰囲気下でトリチウム放出実験を行った。特に本研究の低中性子フルエンスである、3.3×10^<15>n cm^<-2>照射試料ではトリチウム放出ピークは570K付近に出現した。このピークの帰属は、中性子フルエンス3.3×10^<15>n cm^<-2>照射試料の試料に対し、等温加熱実験を行うことで明らかにした。等温加熱下でのトリチウム放出速度はFickの拡散方程式の厳密解と良く一致し、570Kでのトリチウム放出がチタン酸リチウム中の拡散過程が律速段階となった放出であることが示された。チタン酸リチウムにおけるトリチウムの拡散係数及び拡散エネルギーはそれぞれ6.0×10^<-7>m^2s^<-1>、1.1eVと算出された。一方、中性子フルエンスの高い試料ではトリチウムの放出は高温領域にシフトした。この結果から、チタン酸リチウム構造の乱れに伴い、安定なトリチウム捕捉サイトが形成することが示唆された。次にこの安定なトリチウム捕捉サイトの帰属を試みた。本研究での最も高い中性子フルエンスである2.2×10^<19>n cm^<-2>照射した試料では殆ど全てのトリチウムが高温領域で放出した。また、トリチウムの放出率の拡散方程式の厳密解を用いての再現は出来なかった。次に捕捉サイトからの脱捕捉過程を一次反応として一次反応律速モデルを用いて解析を行った。各温度における脱捕捉速度定数から、トリチウムの脱捕捉の活性化エネルギーは1.2eVと見積られた。特にLiOHでは生成したトリチウムが水酸基(O-T結合)を形成することが考えられたため、1.2eVのエネルギーは水酸基の熱分解エネルギーに相当すると考えられた。以上の結果から、照射によりチタン酸リチウム中に照射欠陥などが蓄積することにより、水酸基の形成が起こりやすくなることが分かった。照射欠陥の蓄積や、中性子との反応によるリチウムの燃焼などにより、酸素原子の周りのリチウム密度が下がり、水酸基の形成が起こりやすくなると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
チタン酸リチウムにおけるトリチウム放出の律速段階の同定だけでなく、各トリチウム移行素過程を速度論的に解明することで、チタン酸リチウム中のトリチウム挙動の理解が大幅に進んだ。また、リチウム添加した材料や、リチウムの不足した材料、金属コーティングした試料への調製や中性子照射なども順次行っており、H25年度への実験準備も確実に行っている。さらに、研究で得られた成果を積極的に発表し論文にまとめており、チタン酸リチウム関連の論文も2報投稿(1報は発行済み、1報は受理済)し、さらに1報は執筆中である。また、国際協力研究で得られた成果も、海外の研究者と議論しながら論文にまとめ、発表している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は昨年度中性子照射した材料の実験を進め、得られたLi_2TiO_3での基礎的物理定数を、素過程モデルにインプットし、実験データの再現、または実験データとの差異から他の素過程の可能性を探る。一方、先進的な材料における実験も並行して進めるが、Li_2TiO_3で得られた知見をベースとして解析を行う予定である。最終的にトリチウム増殖材でのトリチウム移行過程の定量的なモデル化を達成することを目標とする。
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