2012 Fiscal Year Annual Research Report
近代中国における「イスラーム民族」の創出と変容-ムスリム社会と国家の関係を中心に
Project/Area Number |
12J04209
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山崎 典子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 中国 / イスラーム / 民族 / ユーラシア / 回族 / 新疆 / ウイグル / 地域研究 |
Research Abstract |
本研究の目的は、近代中国における「イスラーム民族」と言う概念の創出と変容の過程を解明することにある。漢語では、現代中国で主に回族と呼ばれている漢語を話すムスリム(「漢回」)や清代に中国領に組み込まれた新疆に住むテユルク系ムスリム(「纏回」、今日のウイグル族にほぼ該当)をはじめとするムスリム諸集団の総称として、歴史的に「回」という語が用いられてきたが、現在「回」はもっぱら回族のみを意味している。本研究で取り上げる「イスラーム民族」(漢語で「回教民族」、または「伊斯蘭民族」)は、20世紀前半の漢語を話すムスリム知識人や宗教指導者の自称である。この概念は、ときに内地・新疆のムスリムのみならず、国外のムスリム集団をも含意するという点で、基本的に国内のムスリム集団のみを指す「回」よりも広い意味合いをもつ概念であったと言える。このような「イスラーム民族」 概念の変遷を明らかにすることは、近代中国を中心とするユーラシア地域における「民族」概念形成の歴史を理解するうえで、大きな意味をもつ。そこで、本研究では、清代末期から中華人民共和国建設直後までの各時期における同概念の展開を多角的に考察することにより、今日の「民族」をめぐる議論の進展を促すことを目指す。 第一年目であった平成24年度は、20世紀前半の各時期におけるムスリム・エリート(知識人、宗教指導者、ジャーナリスト、軍人など)の「民族」意識を整理し、「イスラーム民族」概念が「回」概念に代わって使われ始める時期を検討した。その結果、以下の結論を得た。第一に、王寛、張子文をはじめとするムスリム・エリートが、漢語を話すムスリムとテユルク語を話すムスリムを包含する「回族」という概念を用いて、ムスリムの代表として民国政府の民族政策に積極的に関与した20世紀初頭の時期は、「イスラーム民族」やそれに相当する概念の使用例はほとんど見られない。第二に、エリートが「民族」としての権利を民国政府に要求した1930年代半ばには、国外のムスリムを含意する同概念の使用例が多く見られる。このことから、1920年代から30年代の時期に同柵念が創出きれたのだと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本国内外での資料の収集、及び文献精読は順調に進んでおり、第一年目の研究目標であった「イスラーム民族」概念のおおよその創出時期も絞り込むことができた。また、学会や研究会での成果発表も積極的に行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、第一年目で特定した「イスラーム民族」概念創出の時期に焦点を当てて、同概念の創出過程を当時の中国における「民族」論や西南アジアのイスラーム改革思想との連関に留意しながら調べるとともに、ムスリムの自称・多少として用いられてきた「回」や「イスラーム民族」概念の連続性を検討する。次に、同概念が中国歴代政権の民族政策・宗教政策に与えた影響を明らかにする。さらに、これらの作業を通して、同概念が近代ユーラシアにおける「民族」と宗教の関係、ひいては今日の世界における「民族」概念そのものを問い直す際にどのような意義をもつのかについて考える。
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Research Products
(7 results)