2013 Fiscal Year Annual Research Report
近代中国における「イスラーム民族」の創出と変容-ムスリム社会と国家の関係を中心に
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12J04209
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山崎 典子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 中国 / イスラーム / エスニシティ / ナショナリズム / 回族 / ウイグル |
Research Abstract |
これまでの研究では、20世紀前半の各時期における中国各地のムスリム社会の諸相やその「民族」minzu意識、さらには「イスラーム民族」概念の創出と変容について、主に漢語を話すムスリム・エリート(宗教指導者、知識人、教育家、軍人など)の言説に注目して、分析を行ってきた。しかし、研究を進めるうちに、「民族」言説のみの考察では不十分であり、ムスリム・エリートの政治行動やムスリム民衆の日常生活におけるアイデンティティ表出の問題を論じる必要があると考えるに至った。そこで、平成25年度は、(a)20世紀前半のムスリム・エリートの政治行動と「民族」言説の関係、及び(b)ムスリム民衆の日常生活における独自のアイデンティティ、という二点に着目して、博士論文のテーマをより具体的に定めるべく、「民族」言説のみに集約されないムスリムのアイデンティティ形成の複雑な様相を解明するために、『醒回篇』(1908)、『正宗愛国報』(1906-13)、『月華』(1929-48)、Alem-i Islam (1910)やTarikh-i Hamidi (1908)をはじめとする漢語やテユルク語で書かれた各種史料を読み込んだ。また、台湾の文書館で約二週間の文献調査を実施し、それらの史料の精読に多くの時間を割くとともに、国内外の学会や研究会で研究成果を報告し多くのフィードバックを得た。その結果、20世紀前半のムスリムのアイデンティティ形成に重要な役割を果たしたものをめぐって、以下の事柄が判明した。 (1)教育、食、衣服、民間伝承など、ムスリム民衆の日常生活と密接にかかわる事物の重要性 オスマン帝国のムスリムによる中国ムスリム子弟への教育や、偽装ハラール食品や豚肉をめぐる非ムスリムとの衝突、辛亥革命前の辮髪問題、民間伝承におけるムスリムの中国皇帝像の概要が明らかになった。 (2)マッカ巡礼の政治的意義 全世界のムスリムとの一体感よりも、中国国民としての自己意識の高揚が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、各種史料の精査により、「民族」書説のみにとらわれないムスリムの多様な世界観の表出を明らかにすることができた。これは当該研究テーマをより立体的かつ多角的に考察するうえで、重要な視点であることから、おおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成26年度は、(1)教育、食、衣服、民間伝承など、ムスリム民衆の日常生活と密接にかかわる事物、(2)マッカ巡礼の政治的意義、という二つの事柄について、より詳細な分析を重ねる。そのことによって、中国を中心とするユーラシア世界やイスラームの文脈における「民族」の在り方と考え方をめぐって、さらなる検討を重ねていきたい。もっとも、「民族」言説のみにとらわれないムスリムのアイデンティティ・世界観表出が重要な問題だからといって、ムスリム社会を主導してきたエリートたちによる「民族」言説もまた、その重要性が強調されるべきである。また、漢語を話すムスリムの「民族」意識だけではなく、ときに「回族」と自称することもあった新疆のテュルク系ムスリムが漢語名称を「維吾爾」「維族」と変えた経緯やその歴史的意義についても、考察を進めていくつもりである。
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Research Products
(7 results)