2012 Fiscal Year Annual Research Report
苦味受容体の遺伝的多様性がチンパンジーの地域特異な採食行動にもたらす影響の解明
Project/Area Number |
12J04270
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
早川 卓志 京都大学, 霊長類研究所, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 霊長類 / チンパンジー / 亜種 / ゲノム進化 / ゲノム多様性 / 味覚受容体 / 苦味 / 熱帯アフリカ |
Research Abstract |
本研究は「苦味受容体の遺伝的多様性がチンパンジーの地域特異な採食行動にもたらす影響」を解明することが目的である。その方法は、苦味受容体遺伝子表現型を細胞レベルで解析すること(1)細胞解析)、特定の遺伝子型を持つチンパンジー個体における行動テスト(2)行動実験)、野生チンパンジーにおける遺伝的多様性及び採食対象食物の分析(3)生態調査)を、3つの柱としている。本年度は(3)の生態調査を行い、遺伝的多様性の分析を行った。 詳細は次の通りである。 (1)【ボッソウ地域における野生ニシチンパンジーの生態調査】 2010年の調査において東アフリカ・タンザニア・マハレ地区のヒガシチンパンジーの野生個体群について直接観察を行い、ほぼ全個体の遺伝子試料と採食植物試料を採集している。本年度はタンザニアとの比較を目的として12月17日から1月25日の40日間、ギニアに滞在し、ボッソウ地区において野生西チンパンジーの直接観察を行い、同様にほぼ全個体の遺伝子試料と採食植物試料を採集した。 (2)【飼育及び野生チンパンジーの遺伝的多様性の決定】 飼育チンパンジーにおける苦味受容体の遺伝的多様性を完全決定し、「ニシチンパンジーとヒガシチンパンジーの苦味受容体の遺伝的多様性は進化的に分化している」という結論を得て、PLoS ONE誌に発表した。しかし実際の生態学的適応については不明であるため、タンザニア及びボッソウの野外調査で収集したDNAから、苦味受容体遺伝子の個体群多様性を決定した。その結果、遺伝的多様性には飼育での研究と同様の東西地域特性が見られたが、遺伝子型の頻度分布や新奇の遺伝子型を発見することもできた。 (3)【霊長類苫味受容体遺伝子ファミリーのゲノム進化史の解明】 苦味受容体遺伝子の進化ゲノム的な関係を明らかにするために、ヒトやチンパンジーを含む霊長類と、比較対象としてツパイ、齧歯類、ウサギ類の全ゲノム配列データから苦味受容体遺伝子を網羅的に計算機的に検索し、霊長類ワイドでの進化史を明らかにした。また、オランウータンについてはチンパンジーで行なってきたような地域差についても計算機的に決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は西アフリカ・ギニア共和国において野生チンパンジーを野外調査を行い、計画通り遺伝的多様性の分析が可能なDNAを無事収集することができた。それに加えて、計算機的な解析による苦味受容体遺伝子ファミリーの進化史の解明に成功し、チンパンジーの遺伝的多様性を霊長類進化史をいう大きな枠組の中において捉えることができた。このことは当初に想定していた計画以上の進展である。それに伴い、チンパンジーのみならずオランウータン、カニクイザル、ジャワルトンにおいての苦味受容体遺伝子の多様性を決定することができ、研究の広がりを生み出すことが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の3つの柱である(1)細胞解析、(2)行動実験、(3)生態調査において、(3)の生態調査を本年度は進展させることができた。次年度は、生態調査で得られた遺伝的多様性の結果に基づき、細胞解析及び行動実験によるより具体的な表現型の解明を行う。また、チンパンジーとの比較を目的として行われたヒトを含む非チンパンジー霊長類の苦味受容体レパートリーやその遺伝的多様性についての結果を論文にまとめ、学術雑誌に投稿する。
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Research Products
(8 results)