2012 Fiscal Year Annual Research Report
インド仏教における範疇論的存在論の研究-大乗思想は本当に小乗有部説を棄てたのか-
Project/Area Number |
12J04336
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
横山 剛 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | インド仏教 / 範疇論 / 五蘊 / アーガマ / アビダルマ / 中観 / 入阿毘達磨論 / 中観五蘊論 |
Research Abstract |
本研究の目的はインド仏教における範疇論の機能及び発展の解明にある。アーガマ(阿含)及びアビダルマにおける範疇論の発展を明らかにし、さらに月称造『中観五蘊論』の分析を通じて大乗中観派における範疇論の位置づけを解明する。 初年度の前半では『入阿毘達磨論』の研究に集中的に取り組んだ。『入阿毘達磨論』は主要テキストである『中観五蘊論』の成立に影響を与えたことが予想され、『入阿毘達磨論』研究は『中観五蘊論』研究の基礎研究に相当する。『入阿毘達磨論』の有部論書における位置づけを明らかにすることで『中観五蘊論』が依拠する有部内の伝統を明らかにすることを目指し、具体的には有部アビダルマの代表有論書『倶舎論』と『入阿毘達磨論』の先後関係を択滅の実在論証における教証利用の観点から考察した。 後半の研究では、研究方針の再検討とそれに伴う研究の全体構造の訂正に取り組んだ。報告者は十二月後半より米国ワシントン大学に滞在し、コレット・コックス教授の指導を仰いでいる。同教授による指導のなかで「存在論」を中心に据える従来の方針では研究の中心が後期アビダルマに偏り、インド仏教史に沿った歴史的アプローチが困難になるという問題点が明らかとなった。そこで研究の主題を存在論を含めた「範疇論」へと拡大し、アーガマや初期アビダルマにおける〈教理概念の単純分類〉も含めた新たな視点から範疇論を分析する方針を立てた。しかし、数ある範疇論体系すべてを考察するのは困難であり、各体系の考察結果が羅列された百科全書的な内容に陥る可能性がある。このような難点を回避し、より有機的な考察を行うために、代表的な体系である「五蘊」の機能の変遷を主軸とし、それとの関係において他の体系を捉え、インド仏教における範疇論全体を分析する新たな方針を立てた。また、この新たな研究方針に従い、従来の研究の構造に訂正を加え、新たな全体構造を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基礎研究に相当する『入阿毘達磨論』研究に取り組み、主要テキストである『中観五蘊論』を研究するための基盤を固めたことは大きな前進である。またその過程において得られた成果を学術大会にて報告し、論文において発表したことも具体的な成果として挙げることが出来よう。さらに従来の研究方針を再検討することで〈五蘊を主軸とする範疇論研究〉という新たな視点を見出たことは初年度の重要な成果である。テキスト研究に遅れがみられるが、二年度目にはテキスト研究を集中的に行うことを予定しており、遅れを取り戻すことは十分に可能である。このように現時点において、研究はおおむね順調に進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
第二年度においては、初年度において新たに見出した研究方針に従い、五纏を軸としてインド仏教の範疇論に関して具体的な分析考察を開始する。まずは、アーガマ(阿含)及び初期アビダルマにおける五蔵の機能から分析を開始し、次に説一切有部アビダルマにおける状況をを特にその実在論との関係に注目しつつ検討する。さらに以上のアーガマ・アピダルマにおける分析結果を基盤とし、『中観五蘊論」における範疇論を分析することにより、中観思想における範疇論の位置づけを解明する。 また第二年度には、使用テキストである『中観五蘊論』のテキスト研究(批判校訂本及び和訳の製作)に集中的に取り組むことを予定している。第二年度の末をもって、テキスト研究を完成させることを目指し、第三年度にはこれまでの成果をまとめ上げ、研究を完成させるために十分な時間を確保できるよう心掛けたい。
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Research Products
(3 results)