Research Abstract |
本年度は, 視覚処理の処理速度が視聴覚統合に与える影響について, 高次過程から低次過程までの要因操作を行い, 心理物理学的手法による検討を行った。 高次過程の要因操作としては, 視覚刺激を構成する物体数の操作を行った。5個, 7個, 9個のドットから構成されるパターンと, 各パターンのドットの位置をずらしたパターンを作成し, 提示される2つパターンの異同判断を行う逆行性マスキング課題を実施した。また, 2つパターン提示時に聴覚刺激を提示する条件と提示しない条件を設定し, 刺激の提示終了からマスク提示までのISIを操作し, 聴覚刺激による正答率の向上効果が生じるドット数とISIの関連について検討を行った。その結果, ドット数が増えるほど, 向上効果が生じるためには長いISIが必要になることが示された。これは, ドット数が増えることによって視覚刺激の処理速度が遅くなり, 聴覚刺激との統合に必要な処理時間が長くなるため, ISIが短い場合には統合が不十分なままマスクが提示されてしまい, 向上効果が生じなくなると推測される。 視覚刺激の空間周波数を操作することにより, 低次過程における視覚刺激の処理速度の操作を行った。空間周波数の異なる2種類のガボールパッチを用いて, 様々なタイミングで聴覚刺激と共に提示し, 同期判断課題を実施した。分析では, ガウス関数のフィッティングを行い, 最も同期していると判断される提示タイミング(PSS)を算出した。いずれのガボールパッチも, 聴覚刺激より遅れて提示した場合に同期と判断されていたが, そのずれは空間周波数が高いガボールパッチの方が大きくなっていた。高い空間周波数を処理する細胞は時間解像度に劣るため, 刺激への応答が遅いことが知られている。この応答の遅さが処理速度の遅延へとっながり, 聴覚刺激との統合に要する時間が伸長すると推測される。物理的同期点とPSSのずれが, 統合に要する時間の指標となるとことが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画からの変更があったものの, 空間周波数や物体数といった視覚処理の低次過程から高次過程までの視覚処理速度に関連する要因が視聴覚統合に与える影響について検討を行い, 興味深い知見を得ることができた。視聴覚統合の処理モデルの構築を目指すうえで有益な知見を得ることが出来たため, 研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度や今年度の研究から得られた知見を, 神経基盤の観点から裏付けを行っていく。本研究において実施している実験では刺激の短時間提示するものが多いため, 時間解像度に優れている事象関速電位を指標として用いる予定である。特に, 視覚処理速度の影響は, 低次過程と高次過程の操作のどちらにおいても一貫した効果が見られたが, 神経基盤においても同様であるかの検討を行っていく予定である。また, 来年度は最終年度となるため, これまで行ってきた研究や先行研究の知見をまとめた上で, 視聴覚統合の処理モデルの構築も行っていく。研究成果の論文投稿は, 来年度も積極的に行っていく。
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