2012 Fiscal Year Annual Research Report
「大日本帝国」の膨張過程および崩壊後における「満洲開拓民」に関する歴史学的研究
Project/Area Number |
12J04369
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
細谷 亨 慶應義塾大学, 経済学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 満洲移民 / 海外引揚 / 引揚者 / 社会福祉 |
Research Abstract |
本研究の課題は、「大日本帝国」の膨張過程における満洲開拓民と帝国崩壊後の引揚者が、地域や政策といかなる関係をもち、戦前・戦時・戦後を生きていったのかを歴史的に明らかにすることである。グローバリゼーションや貧困問題の顕在化する現代にあって、近年、人の移動や地域社会の変容、社会福祉に関する研究は重要性を増している。本研究の課題はそうした現代的関心とも深く結びついている。 帝国崩壊後の引揚者をめぐる議論で焦点になるのが、戦後社会への復帰過程において実施された引揚者援護事業である。これまでの引揚者援護事業に関する研究では、政府による貧弱な援護体制と民間団体等による法外援護が重視されてきたが、本研究では、法外援護に加えて、公的扶助など法定援護を含めた視点から引揚者援護事業の全体像を明らかにしようと試みた。 第1年目の課題は、長野県飯田市(下伊那郡)の旧村に残された役場史料を用いて、地域(農村)レベルでの引揚者援護事業の実施状況を時期別・事業別に把握することであり、フィールドワークを通じて史料収集を行なった。調査・分析の結果、対象地での引揚者援護事業の全体像が概ね明らかになった。援護事業においては、法定援護の比重が小さくなかったことに加え、時期的な変化があったことも実証することができた。本研究で得られた知見は、行政村研究や社会福祉研究など関連分野にとっても大きな貢献を果たすものと考えられる。 また、あわせて同じ地域圏に属する地方都市(飯田市)での大まかな動向を検証することができた。他地域との比較分析など本格的な検討は今後の課題であるが、対象地の位置づけをより明確にするためにもそうした作業は不可欠といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィールドワークを通じた史料収集・分析が順調に進展したこと。具体的には、第1年目の課題である地域レベルでの引揚者援護事業の全体像を時期別・事業別に把握できたことに加えて、政策展開との関わりを視野に入れつつ検証することができた。また、地方都市の事例や他地域との比較分析の目途も十分に立ったことから、第2年目の課題遂行に向けた準備に取りかかることが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
引揚者の生活など実証面で不十分な領域がみられることから、対象地域については一定の追加調査が必要である。 他地域での史料収集とあわせて遂行しなければならない。また、研究論文としての成果発表は第2年目以降の大きな課題であり、その準備に向けた取り組みを積極的に進めていく。史料調査の過程では、引揚者援護のほか、未帰還者問題に関する文書を発掘することができたため、当初の計画とあわせて分析を行ないたい。
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