2013 Fiscal Year Annual Research Report
「大日本帝国」の膨張過程および崩壊後における「満洲開拓民」に関する歴史学的研究
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12J04369
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
細谷 亨 慶應義塾大学, 経済学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 満洲移民 / 引揚者援護事業 / 社会福祉 / 母村 |
Research Abstract |
本研究の目的は、満洲移民史研究と海外引揚研究の接続を図ることで、満洲開拓民・引揚者を「大日本帝国」の膨張から崩壊に至る歴史過程のなかに位置づけ、両研究の深化と共に、新たな戦時・戦後史像の提示を目指すものである。本研究では母村と社会福祉が重要な視点になっている。 2年目にあたる平成25年度は二つの課題に取り組んだ。一つは昨年度に引き続き、長野県飯田市(旧川路村)を対象に、引揚者援護事業が地域(母村)のなかでどのような歴史的内実をもっていたかを明らかにすることである。調査・分析結果からは、敗戦後の生活困窮者対策として実施された生活保護制度が、帰村した多くの引揚者を包摂していった事実が明らかになった一方で、戦前に満洲移民を大量に送出した歴史をもつ長野県では要援護者全体に占める引揚者の比重が高く、引揚者援護事業のなかでも生活保護のもつ意味がとりわけ大きかった点か明らかになった。引揚者援護事業と公的扶助の関係を歴史的に明らかにすることは、戦後社会の特質を解明するうえで重要であり、今後も同様の視角から他地域の事例を含めて包括的な議論へと発展させていきたい。 二つ目の課題は、海外引揚・引揚者援護事業の前提となる満洲開拓移民の送出をめぐる問題の解明である。具体的には、長野県富士見町(旧富士見村)を対象に、分村移民送出における母村と農家の関係を明らかにすべく調査を実施した。調査・分析から明らかになった点でとくに重要なのは、多くの農家が母村に耕地を保有したまま満洲へ移住したこと、さらに引揚後はそうした移住者が再び母村の自作農に復帰するという事実である。上記の点は、引揚者が母村にいかなる形で包摂されたのかといった第一の課題の論点の解明とも関わっており、満洲移民史研究と海外引揚研究の接続を図る本研究を遂行するうえで不可欠の事例分析となる。なお、第二の課題は研究遂行過程で発見されたものであり、当初の計画では予定されていなかったが、本研究課題の解明にとって重要な論点であるため今後も引き続き分析を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
数次にわたる史料調査の結果、分析に必要な史料の収集が相当程度まで完了していること。成果として口頭発表を実施したことに加え、今後の論文の執筆にも目途がつき始めたこと。
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Strategy for Future Research Activity |
対象とする他地域への追加調査により、裏付けとなる史料の収集を図ることで、研究のさらなる深化が図れると考えている。
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