2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J04527
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
片渕 奈美香 東京学芸大学, 連合学校教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 天然染料 / 初期合成染料 / 染料部属 / 染色堅牢性 / 染織品 / 保存 / 古裂 |
Research Abstract |
本研究は、明治時代の着物地を対象として、色調(赤と紫)の保持を目的に、染料を中心とする材質分析と保存に関わる染色堅牢性の評価を行う。本年度の研究実績の概要は、以下の通りである。 1.文献調査および初期合成染料と古裂の収集 明治時代に発行された染色技法書である「實用色染學」を選定し、初期合成染料の名称・特性・染色技法などの調査に着手した。また、実験に用いる試料として、明治時代に用いられた代表的な初期合成染料および明治時代に制作されたと思われる着物地(古裂)を選定・収集した。 2.染料を中心とした古裂の材質分析 染料分析における課題として、(1)天然染料か合成染料かを判別する、(2)初期合成染料の同定に先立ち、まず染料部属を明らかにする、(3)分析方法は、なるべく汎用で簡便な方法とする、を設定した。これらをもとに比較的簡便な非破壊と破壊による複数の分析手法を組み合わせて、フローチャートを作成した。次に、フローチャートに沿って、古裂試料を対象に行った分析結果と既知試料から得られた分析結果を比較することで、赤・紫地古裂の分析を行った。その結果、赤・紫系染料共に、天然染料と合成染料の判別、および天然染料の同定が行えた。合成染料では、概ね染料部属の鑑別が行えたが、部属不明のものも見られた。 続いて、上記の分析結果をふまえ、フローチャートの改良点として、(1)初期合成染料の染料部属の鑑別において部属不明となったものの検討、(2)破壊分析に用いる試料の微量化、の2点について検討した。(1)では、現在は淘汰された技法である、異なる染料部属の混用について検討し、その可能性を示す結果を得た。(2)では、作成したフローチャートを染織文化財へ適用することを想定し、破壊分析に用いる試料量を糸1本程度にまで少なくすることを試みた。その結果、実験操作を工夫することで、微量化できる可能性があることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね交付申請書に記載した研究実施計画に沿って研究を進めることができた。また、次年度に行う予定である染色堅牢性試験の準備にも着手した。しかし、染料を中心とする材質分析において、分析対象とした古裂試料のうち、分析途中の多色のものが数点残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、さらに保存に関わる染色堅牢性試験の実施とその評価を行う計画である。現在までに完了している染料分析の結果をふまえ、見出された初期合成染料の中に、とくに絹を染めた際の耐光堅牢性に乏しいとされる染料が含まれること、また分析の過程から水系洗浄処理に対する堅牢性の乏しさが示唆される古裂試料があることから、とくに保存に関わる要因として光および水系・非水系洗浄処理の2つに注目し、これらに対する染色堅牢性試験とその評価を行うことを考えている。
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Research Products
(3 results)