2012 Fiscal Year Annual Research Report
現代における自己意識論-心の哲学から見たカントの統覚概念-
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12J04680
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
辻 麻衣子 上智大学, 哲学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 近世ドイツ哲学 / カント / 超越論哲学 / 認識論 / 自己意識 |
Research Abstract |
当該年度に実施した研究の主な成果は、以下の2点である。 1.『純粋理性批判』(以下、『批判』)超越論的演繹論(以下、演繹論)における鍵概念である統覚概念を、同書第2版の叙述を採りあげて詳細に分析した。この分析は、第1版演繹論と第2版演繹論とを架橋し、両者における統覚概念の包括的理解を目指す本研究にとって、その基盤となるものであり、まず初めに達成されるべき目標である。成果としては、「三重の総合」と呼ばれ第1版演繹論にのみ存在する、認識における三段階の過程が、第2版においても後景に退いてはいるものの、アイディアとして保存されていることを、テキストの検討な詳細によって明らかにした。これは、両版の相違点を強調し、両者を断絶させて解釈する傾向にある過去の先行研究とは一線を画す解釈であると言える。 2.『批判』に影響を与えたと考えられる他の哲学者の著作(J.N.テーテンス、D.ヒューム)に注目し、これらと『批判』との比較を行った。具体的には、以下の2つに分けられる。 (1)演繹論中で統覚概念と深く結びついている構想力概念について、「カントの先駆者」と呼ばれるテーテンスによる構想力に関するテキストを精読し、カントの構想力概念に与えた影響に関する検討を行った。両者が考えた構想力概念の体系には確かに相違点も多くあるが、同時代の他の哲学者には見られないような、特異な共通点もまた存在する。この共通点を両者のテキストから析出し、これまで省みられることの少なかった構想力概念におけるテーテンスとカントとの関係に焦点を当てた。 (2)カントが演繹論において統覚概念を登場させる機縁の一つとして考えられる、ヒュームの人格の同一性に対する批判の分析を行った。両者の比較検討を通じて、後者を乗り越えることが『批判』演繹論の隠れた目的であったことを説得的に示す試みを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第2版演繹論における統覚概念の明確化、および他の哲学者の著作との比較検討を通じた、『批判』の持つ独自の視点の析出に関しては、順調に進展したが、『批判』演繹論における統覚概念と、近年の心の哲学によるアプローチとの接点に関しては、予想を下回る達成度しか得られなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
『批判』第1版演繹論の内在的研究をさらに進め、第1版と第2版との比較検討を本格的に開始する。 加えて、当該年度にあまり実行できなかった課題、すなわち心の哲学における統覚概念の受容を始めとした、現代的視座からのカントの自己意識論の検討を行う。
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Research Products
(7 results)