2012 Fiscal Year Annual Research Report
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12J04689
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川上 知里 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 今昔物語集 / 長谷寺験記 / 説話 / 中世文学 / 院政期 / 仏教文学 |
Research Abstract |
本年度の研究課題遂行状況はほぼ計画の通りである。具体的な成果として、論文1「『今昔物語集』の求める事実性」(『説話文学研究』第47号、平成24年7月30日掲載)、論文2「『長谷寺験記』論」(『国語国文』第81巻第9号、平成24年9月25日掲載)、論文3「『今昔物語集』恐怖表現の諸相と意義」(『中世文学』第58号、平成25年6月掲載予定)を執筆した。 論文1では、院政期の説話集である『今昔物語集』について、説話の事実性を保証するための具体的手法と特徴、そしてその意味を明らかにした。その際、『今昔物語集』に集録された個々の説話とその出典作品を比較分析し、『今昔物語集』の特有表現や作品独自の手法を提示した。同じように『今昔物語集』に関する論文3では、当該作品にておいて特徴的と言われている恐怖表現を取り上げ、この表現が秀逸な表現描写にとどまらず、作品生成において根本的な意義を持つ存在であることを明らかにした。『今昔物語集』編者のあまりに強烈な興味ゆえに、物語展開や巻構成・全体構成意図と矛盾した恐怖表現が存在することを明らかにし、作品生成過程を考えるにあたって恐怖表現の再検討を提言したものである。加えて、『長谷寺験記』を取り上げた論文2では、『今昔物語集』や『大日本国法華経験記』といった先行説話集をいかに改変し受容していったのか、その具体的様相を明らかにした。口承文芸として捉えられてきた当該作品において、出典変容の営みが口承によるものではなく、統一された目的のために編者が意図的に行った改変であることを示したものである、これらの論文では、個々の作品における説話受容の手法を明らかにすると同時に、現在未踏査のまま残されている当該分野の資料も紹介しており、本年度における課題を果たしたものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者の研究は、『今昔物語集』全31巻を、依拠資料や同類話と比較分析する作業を通して、説話の受容と変容の実態を明らかにすることを目的としている。その際に、依拠資料や同類話の資料収集が当面の課題であったが、滋賀・京都・大阪への資料調査により、ある程度の目的は達成できたものと思われる。ただし、社会情勢の問題で予定していた中国への資料調査が実行できなかったため、その作業は平成25年度に振り替えて行う予定である。現在収集した資料を使い説話受容の実態を解明する作業は、『今昔物語集』『長谷寺験記』の二作品で実行できているため、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究活動に引き続き、『今昔物語集』の依拠資料や同類話資料を収集する活動を継続して行う。社会情勢の問題で平成24年度に実行できなかった中国への資料調査を、集録説話に登場する土地のフィールドワークも含めて行う予定である。 また、収集した資料を『今昔物語集』各話と比較分析し、説話の受容と変容の実態を明らかにする研究を推進する。この点については、平成24年度では「事実性の保証」と「恐怖の表現描写」という二観点から分析を試みたが、今後は「欠字の意味」と「話末評語の付加」という観点から研究を推進する予定である。 加えて、『今昔物語集』と数多くの同文的同話を抱える『世継物語』においても比較分析を行い、説話受容の違いを明らかにする予定である。
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Research Products
(4 results)