2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J04728
|
Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
佐々木 淑美 (独)国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 特別研究員PD
|
Keywords | ハギア・ソフィア大聖堂 / モザイク / 現場保存 / 劣化 / 析出塩 / 時代別特性 / 修復履歴 / アヤ・イリニ聖堂 |
Research Abstract |
ハギア・ソフィア(トルコ、イスタンブール)において現場保存されているモザイクでは、テッセラの剥落や黒変色がみとめられ、周囲の壁面や天井では塩の析出や剥落の進行が顕著である。これら劣化の要因を明らかにすること、また劣化への対策と保存方策を歴史学研究と分析化学研究の両視点から論究することを、本研究は目的としており、初年度は、そのための基礎史料および基礎データの整備とこれまでの現地調査の継続作業および新規調査開始のための予備調査を行った。 まず、ダンバートン・オークス研究所が所蔵する写真および手記等を精査し、1930年~1970年に実施されたモザイクおよびその周辺の壁面・天井に対する修復作業について、実施年・場所・作業内容・当時の状態について整理した。これまで、ダンバートン・オークスによる修復作業の詳細や当時の状態については、現場で記された膨大な量の記録があるにもかかわらず、各モザイクに関する報告書から概要が知られるのみであった。今回の調査により、報告書には記載のなかった発見当時のモザイクの状態や漆喰下のモザイクに関する検討について知ることができた。また、ここ70年間での劣化の進行程度を検討することができるとともに、ダンバートン・オークスによる修復の再評価も可能となる。 次に、採取したモルタルおよび析出塩サンプルの分析結果とそれらが採取された場所とその施工年代・劣化状態とを照らし合わせ、材料・技法史的観点からみたモルタルの時代別特性と劣化程度との関係を明らかにした。これにより、修復履歴の判然としない壁面において、モルタルの組成から制作年代ならびに修復年代を推定できる可能性を示唆できた。この成果は、保存科学51・52で報告した。 これら研究成果をうけて、次年度からは、アヤ・イリニでの調査を実施する許可も得ることができた。ハギア・ソフィアとの比較が可能となるだけでなく、これまで一切対策が講じられてこなかったアヤ・イリニ・モザイクの保存のために、本研究の成果は有用であると言える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
年次計画では、基礎史料および基礎データの整備とこれまでの現地調査の継続作業および新規計画の予備調査を行うと示した。ダンバートン・オークスでの資料収集ならびに現地調査によって、十分な史料およびデータを整備することができた。また、これまでの研究結果に基づき、ハギア・ソフィア大聖堂外壁補修工事のための提案レポートを作成し、現地に提出できたことは、本研究の大きな成果であると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続きハギア・ソフィアでの現地調査を実施するとともに、隣接する同時時代建築のアヤ・イリニ聖堂での本格調査を開始する。ハギア・ソフィアでは、外壁の再被覆による内壁面での影響と、2013年3月から開始された北側内壁面の修復の内容および効果について検討・評価し、新たな問題点の確認をする必要がある。継続して壁内含水率の計測や建築内外の温湿度計測、サンプル採取をおこなうとともに、新たに海洋環境の影響を評価するためにガーゼ法による海からの飛来塩分量の測定もおこなう。アヤ・イリニでは、保存状態が悪いモザイクを対象とするため、イスタンブール保存修復研究所と協力して、早期の修復実施を視野に入れた調査を計画しており、そのための基礎情報として内部環境のモニタリングとモザイクの現状記録の作成を2013年度中に完了する予定である。
|