2012 Fiscal Year Annual Research Report
繁殖を巡る雌雄間の対立(性的対立)によって繁殖形質に生じる進化的軍拡競走の検証
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12J04740
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
日室 千尋 岡山大学, 大学院・環境生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 性的対立 / 軍拡競争 / 射精物 / 形態形質 / トレードオフ / 繁殖のコスト / 個体群 |
Research Abstract |
繁殖の利益を巡って性的対立が起きた結果、雌雄間での拮抗的共進化によってもたらされた軍拡競走により、雄の適応とそれに対する雌の対抗適応の応酬は素早く、かつ止めどなく起こる。例えば、雄の適応がエスカレートしてもすぐに雌が対抗適応し、妥協線上に。一方で、雌の対抗適応が弱まると、すぐに雄が無駄なコストを払うことをやめ雌に適応し、妥協線上に回帰すると考えられている。自身の先行研究から、コバネヒョウタンナガカメムシの繁殖を巡る軍拡競走において、京都個体群より岡山個体群の方がエスカレートしていることが示唆されている。つまり、岡山個体群の雌雄は、京都個体群よりも軍拡競走に関して、何らかのコストを多く払っていることが考えられる。このような現象を示唆する研究は、アメンボ類の雌雄交尾器に見られ、性的対立の強い種では雌雄の交尾器末端が大きく発達しており、一方で、性的対立が弱い種では大きく発達していないことが報告されている。本種においても、雄の場合に射精物の量や質において、岡山個体群で何らかのコストを多く払っている可能性がある。雌の対抗適応においても然りである。岡山雌は岡山雄の射精物(毒物質)に対して、コストを払い何らかの対抗適応していることが考えられる。そこで、雌雄それぞれの形態形質を比較することで、軍拡競走に伴うコストを雌雄それぞれの場合で検出した。その結果、胸部幅、前脚腿節長、前脚腿節幅において雌雄ともに岡山個体群の方で京都個体群よりも有意に小さい事が明らかとなった。つまり、岡山個体群は雄の射精物を巡る軍拡競走において、京都個体群よりも投資した分、形態形質が小さくなった可能性が示唆された。種内において、軍拡競走のコストを個体群間比較によって検出できた点は、軍拡競走のメカニズムを明らかにする上できわめて重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年次計画にある射精物に含まれる交尾抑制物質の同定には至っていないものの、2年目の年次計画に含まれていた、軍拡競走のコストが検出できた点、及び軍拡競走の強さに関する要因について、当初仮説として掲げていた実効性比や密度が本種のオスの射精物を巡る軍拡競走の強さの要因ではないことが明らかになった点、以上2点が当初の計画以上よりも進展している。また、現在、神戸、広島などの個体群を用いて軍拡競走の強さと地理的関係についても調査中である。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目に出来なかった、オスの射精物に含まれるタンパク質(毒となる物質や交尾抑制物質)を抽出し、抽出されたタンパク質を岡山個体群、京都個体群由来の処女雌それぞれに容量可変型オートインジェクター・ピペットNANOJECT IIを用いて注射し、雌の寿命、雄の再交尾抑制物質の効果の程度について明らかにする。また、現在進行中の神戸、広島などの個体群を用いた軍拡競走の強さと地理的関係について、明らかになり次第、結果をまとめた論文を国内外の雑誌に投稿する。軍拡競走の強さには何が効いているのかを明らかにする為に、雌雄の形質に注目し、性選択の強さを算定し、軍拡競走の強さと性選択の強さの関係について明らかにする。軍拡競走のコストを検出する為に、雌の寿命や産卵数、雄の射精物の量、付属腺の大きさを個体群間で比較する。
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Research Products
(7 results)