2013 Fiscal Year Annual Research Report
繁殖を巡る雌雄間の対立(性的対立)によって繁殖形質に生じる進化的軍拡競走の検証
Project/Area Number |
12J04740
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
日室 千尋 岡山大学, 環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 性的対立 / 軍拡競走 / 拮抗的共進化 / 交尾抑制質 / 寿命 / 地理的モザイク説 / 個体群 |
Research Abstract |
雄による雌の再交尾抑制戦術を巡る軍拡競走の検出 コバネヒョウタンナガカメムシTogo hemipterusの雄は交尾の際に再交尾抑制物質を送り込むことで、雌の再交尾を遅延、抑制させている。それに対し、雌は免疫物質を作るなど何らかの対抗戦術を採ることで、再交尾抑制を巡る雌雄間の対立、軍拡競走が生じていると考えられる。本種は通常、短翅型で移動能力が低く、個体群間で遺伝子交流が少ないので、雄の再交尾抑制戦術を巡る雌雄間の対立(軍拡競走の程度)は隔離された個体群ごとで異なっていると考えられる。そこで、京都個体群、岡山個体群、広島個体群を用いて個体群間交尾実験を行い、雌の反応(再交尾率、不応期、寿命)を調べた。その結果、岡山雄と交尾した京都雌は、再交尾を強く抑えられ、著しく寿命が低下した。一方で、京都雌と交尾した岡山雌は、京都雄と交尾した場合に比べ、再交尾抑制期間が短くなり、寿命が伸びる傾向が見られた。つまり、岡山個体群の方で京都個体群より軍拡競走の程度が強い事が再び示された。広島個体群を用いた実験では、京都雄と交尾した広島雌は強く再交尾を抑制された事から、京都個体群の方で広島個体群より軍拡競走の程度が強い事が示唆された。軍拡競走の強さが個体群間によって異なる事を示した極めて重お湯な研究結果である。 軍拡競走の強さと地理的関係について 軍拡競走の強さと地理的関係について、明らかにするために、京都、岡山、広島個体群を用いて、個体群間交配試験を行い、雄による雌の再交尾抑制戦術を巡る軍拡競走の強さを調べたところ、上記に詳細な結果を述べたように、その強さは、岡山で一番強く、次いで京都、広島個体群であることが示唆された。この結果から、軍拡競走の強さと地理的関係について、なんらかのクラインがあるのではなく、モザイク状になっていることが示唆された。これはThompson (1994, 2005)が提唱する共進化の地理的モザイク説を指示する重要な研究である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当年度の目的とした、岡山、京都個体群以外での個体群を用いた軍拡競走の検出について、広島個体群を用いる事によって検証出来た。結果、広島個体群の雌は、京都個体群の雄め交尾抑制物質によって強く再交尾を抑制する事が明らかとなった。つまり、軍拡競走において、広島個体群は京都個体群より弱い事が示唆された。また、軍拡競走の強さと地理的関係について、一定の方向性はなく、モザイク状になる事が示唆された。 また、軍拡競走の強さには何が効いているのかを明らかにする為、実効性比、密度を測定したところ、軍拡競走の強さとそれぞれの間には、何ら相関が見られなかった。これは新たな知見である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、本年度は雄の再交尾抑制物質や毒物質のアミノ酸配列やその立体構造を京都大学大学院農学研究科森直樹准教授指導の下、明らかにする予定である。 引き続き様々な個体群を用いて、軍拡競走の強さやコストを検出し、得られた結果をまとめた論文を国内外の雑誌に投稿する予定である。
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Research Products
(4 results)