2012 Fiscal Year Annual Research Report
ヘーゲルおよびドイツ観念論における人間学的思考の可能性
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12J04772
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池松 辰男 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ヘーゲル / 人間学 / 精神哲学 / 倫理学 |
Research Abstract |
2012年度の主な研究課題は、ヘーゲル「人間学」(G.W.F.ヘーゲル『エンチュクロペディ』所収)をめぐる理論的総括である。 まず日本倫理学会第63回大会における口頭発表「習慣と狂気-ヘーゲルにおける意識の生成」では、(1)ヘーゲル「人間学」の主題が、「精神における意識の発生過程の記述」であるという点を提示した。そしてその際に(2)「習慣」の成立が決定的条件をなしていること、(3)習慣の成立過程が挫折または退行すると「狂気」(精神病理)に転ずること、この2点を主題に関わるもっとも重要な契機として指摘した。 次に『倫理学年報』第62集における論文「承認の条件としての〈身体〉-ヘーゲル「人間学」における〈身体〉の意義-」では、(1)「習慣」の成立が精神と身体との分離をもたらし、それが客観を対象化する意識の成立に繋がること、(2)この論点がのちに「精神現象学」における承認論成立の決定的条件をなしていること、(3)ゆえにヘーゲルにおける身体の問題が、対自的・対他的関係の成立にとって不可欠であることを指摘した。 最後に『倫理学紀要』第20輯「精神の闇夜-ヘーゲルにおける〈想起なき内化〉と〈内的なもの〉の意味-」では、(1)主として「人間学」における精神病理分析の意義に注目した。(2)ヘーゲルはこの議論を初期の「精神哲学」構想から受け継いでいるが、「人間学」において意識へと至る発生論的記述として語り直すことで、初めて主題化可能になったと言える。(3)またこれによって、従来のヘーゲル研究では注目されてこなかった、精神の無意識・前意識の部分に対するヘーゲルの関心の大きさが示されたと言える。 これらの研究成果によって、目標としていたところの、ヘーゲル「人間学」の主要な意義とその鍵概念、および初期の「精神哲学」構想からの理論的連続性が示された。以上が2012年度の研究実績である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2012年度に関しては当初の見込み以上の成果が得られた。当初は人間学におけるヘーゲルの心身関係論のみを中心としていたが、この論点に密接に関連する形で、ヘーゲルにおいて精神病理学的な観点が果たしている役割の大きさを確かめることができた。研究の目的の一つである、20世紀以降のヘーゲル哲学批判に対する有意義な応答を試みる上で、この論点の提示の持つ意義は小さくないと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年以降は、人間学とその他のテクストおよび思想との比較検討が中心的な課題になってくる。ただし、当初はメーヌ・ド・ビランら同時代の一部の思想家を中心に取り上げる予定であったが、2012年度の成果を踏まえた場合、比較検討の対象や範囲はより広くとるべきだと考えた。そこで、(1)人間学と密接に関連する「心理学」のテクストとの比較検討、およびそれを通じた「主観的精神」論の全体像の提示、(2)関連する前後の時代の思想家との比較検討(イギリス経験主義やコンディヤック、メーヌ・ド・ビラン、カントやプラトナーなど)。(3)「精神哲学」内部における実践哲学的文脈との比較検討。これにより、結果としてヘーゲルの「精神哲学」の体系の全体像を視野に入れ、議論の土台を拡張した上で、2014年の目標であるドイツ観念論における実践哲学との比較検討に移ることができると考える。
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Research Products
(3 results)