2013 Fiscal Year Annual Research Report
ヘーゲルおよびドイツ観念論における人間学的思考の可能性
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12J04772
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池松 辰男 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員DC1
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Keywords | ヘーゲル / 精神哲学 / 人間学 / 心理学 / 主観的精神 / 法の哲学 |
Research Abstract |
平成25年度は『ヘーゲル哲学研究』をはじめ複数本の査読付論文および発表に応募し, いずれも採用された。主要な研究目的は, ヘーゲルの「人間学」および「心理学」(G. W. F. ヘーゲル『エンチュクロペディ』「第三部 精神哲学」「第一篇 主観的精神」「A 人間学」「C 心理学」)との対比を通じて, その「主観的精神」論の全体像を明らかにするとともに, そこから取り出された論点を, 同時代(ひいては現代の)問題関心と関連づけることである。 今年度の研究を通じて取り上げた主要な論点は, (1)ヘーゲル「主観的精神」論における精神病理の問題, (2)ヘーゲル「主観的精神」論の発展および叙述の原理(その主要な部分である「人間学」と「心理学」の構造の対比を通じて), (3)ヘーゲル「主観的精神」論における「精神の機械制」の問題――以上3つであり, いずれも従来の研究において十分に省みられることのなかったものである。研究代表者はこれらの論点が「主観的精神」論の理解にとって不可欠であることを示しつつ, さらにとくに(3)の論点が『法の哲学』に代表される「客観的精神」論と密接な関連にあることを明らかにした。これは, 「主観的精神」を含めた, より包括的でより射程の広いヘーゲル実践哲学解釈の可能性を開くものであると言える。 平成26年度以降の研究は, 以上の論点を踏まえ, ヘーゲル実践哲学やそれに関連する他の哲学とのさらなる接近をはかるものとなる。それによって, 「人間学」をはじめとするヘーゲルの「主観的精神」論の体系全体における意義を提示し, ヘーゲル実践哲学の姿を新たにすることをめざしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成25年度に関しては当初の見込み以上の成果が得られた。当面の課題は「人間学」および「主観的精神」論の全体像を, 他の部分ないしテクストとの比較を通して明らかにすることであったが, これは十分に達成せられたと思う。それに加えて, 当該年度の研究では, ヘーゲルにおける「精神の機械制」という独自の概念が「主観的精神」の発展をささえる契機であることを指摘しつつ, これが「客観的精神」においても, 市民社会における労働の一側面として機能していることをも明らかにした。この点で「主観的精神」と「客観的精神」の関連を明らかにしたことは, ヘーゲル精神哲学・実践哲学の現代的意義を確かめるうえできわめて有意義な成果であったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度以降の研究では, 「人間学」を中心とするヘーゲル精神哲学(「主観的精神」論)に関するこれまでの理解を踏まえて, 『法の哲学』などに代表されるヘーゲル実践哲学へのより一層の接近をはかる。これにより, 研究史上で十分に省みられなかった「人間学」を中心とするヘーゲル精神哲学の思考が, 実践哲学との密接な関連を通して, その哲学の全体を理解するうえで不可欠な地位を占めていることを確認する。なお, このさい昨年度同様, 引き続き関連する同時代および現代のテクストとの比較対照が重要な方法の一つとなる。この手続きは, とりわけ, 同時代の経験心理学にその体系構成の多くを負っている「人間学」「心理学」の理解にとっては必須となる。そのうえで, 同時代および現代的な観点から向けられてきた批判に対する応答も試みていきたいと思う。
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Research Products
(3 results)