2012 Fiscal Year Annual Research Report
抑うつの昇華理論による理解とその心理臨床的治療の探究
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12J04776
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
堀川 聡司 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 昇華 / 抑うつ / 精神分析 / 喪の作業 |
Research Abstract |
本研究の目的は、「抑うつ」という人間の心理状態に関して、今日注目されている「新型うつ」を考慮に入れた上で、一つの体系的な理解と、その治療法を提示することである。そしてその際、精神分析の概念である「昇華」 を糸口として考察を進めていくのがその特徴である。本研究で取り組まねばならないことは要約すると以下の三つを挙げることができる。 (1)昇華理論の探究 (2)臨床実践における治療の心的メカニズムの明示 (3)報告者の臨床実践に基づいた、本研究の理論的考察の妥当性の検討 本年度はとりわけ(1)を重点的に進めた。「抑うつは喪の作業の逸脱である」という命題に立脚した上で、昇華が喪の作業の重要な一要素であるということを文献研究によって示した。その研究は『精神分析研究』に「喪の作業としての昇華」という題で掲載されることが決定した。 また昇華理論は精神分析において歴史的に曖昧であるという現状に鑑み、その整理と精緻化をし、さらには報告者独自の理解を提示することも試みた。そこでは「昇華がどのように生じるのか?」という問題を複数の先行研究を整理することを通して考査している。他にも,日本ではあまり注目されてこなかったLaplanche,J.の昇華理論を批判的にレビューした。 (2)(3)に関しては、日々の臨床実践と定期的なスーパーヴィジョンに加え、ケース検討会への参加(国内2回、海外1回)や事例論文の執筆を行った。 その他にも、抑うつに関する研究として、昨今話題になっている「新型うつ」をレビューし,それが身体性という次元からの治療が有効であることを示唆した。これは『最新精神医学』に掲載された。また同じく「新型うつ」 を精神分析的な観点から考察する論考も執筆し、現在『心理臨床学研究』に投稿中である。 本年度進めた研究によって,何よりも昇華に関する理解がより強固に提示され,うつの臨床的な問題をその本質から考えていくための足掛かりをもつことができたと言えるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
三年間にわたる研究計画の第一年目は、主に昇華概念の変遷をレビュー的に辿ることを目標としていたが、本年度はそれだけに留まらない、報告者独自の視点から問題点を掲げ、それを考察するという作業ができた。 また、査読論文4本を含む5つの論文を公表したことも当初の想定よりも早いペースで研究が進んでいることを示唆していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後最も中心的に取り組まねばならない問題は昇華の臨床的な意義を主張するための理論的、実践的な研究である。既に「喪の作業としての昇華」については発表したが、それ以外の昇華のパターンを明確に選別し、その差異を明らかにしなくてはならない。そこで、今後想定しているキーワードは、「羨望」と「倒錯」である。共に精神分析の主要概念であるが、報告者の見解によるとそれは昇華と密接に関連している。報告者の臨床体験をも踏まえつつ、その理解の深化を進めなくてはならない。
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Research Products
(9 results)