2012 Fiscal Year Annual Research Report
中世後期の都市と異端-フリブールのヴァルド派をめぐって-
Project/Area Number |
12J04787
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
神谷 貴子 名古屋大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 中世都市史 / スイス史 / 中世異端史 / 市民登録簿 / ヴァルド派 |
Research Abstract |
今年度の課題は、これまでの研究で取り上げた(1)ヴァルド派裁判の再考と(2)フリブールの都市文書に関する未刊行史料の収集、分析であった。 (1)フリブールで二度にわたって行われたヴァルド派裁判については、法制史的観点から裁判の手続きを改めて考察した。異端は商人や市政の役職者を含む都市の広範な社会層から成り、とりわけフリブールの新興市民層を多数含んでいた。裁判手続きから、彼らが都市にとって排除すべき集団ではなく、むしろ都市の経済・市政にとって重要な役割を担い、都市にとっては保護すべき市民層であったことが明らかとなった。この研究成果を法制史学会中部部会第67回例会(9月29日)において、「中世後期西スイス地域における異端審問―フリブールのヴァルド派裁判を中心にして―」として発表した。 (2)未刊行史料の分析結果から、第17回ワークショップ西洋史・大阪(5月26日)において、「中世後期スイスにおける都市社会の変容―ブリブールの市政と市民加入をめぐって―」という題目で発表を行った。この発表ではとりわけ15世紀初頭の都市役人選出に関するフェナー(旗頭)文書と未刊行である都市の市民登録簿から、経済的、政治的指導者層を形成する市民層は、中世後期には、より排他的な社会層へと変化する転換期を迎えていたことを明らかにした。 さらに、未刊行史料を収集、分析するために8月にフリブール国立文書館を訪問した。非市民名簿や市民登録簿に関する目録等の未刊行史料を新たな史料として加え、市民登録簿の史料群を網羅的に分析することで中世後期の都市社会を明らかにしたいと考えている。この課題に取り組むため、市民登録簿1,2の史料と史料群の写真撮影、マイクロフィルムの分析、複写、関連する文献の収集にあたった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の課題に着実に取り組み、その成果を発表することができた。また、8月の文書館訪問の際は、中世史家Kathrin Utz hemp氏とDavid Blanck氏に面会する機会を得た。これまでの未刊行史料の分析結果を報告し、とりわけ中世後期の市民権継承の変容に関する研究成果に一定の評価を得ることができた。先行研究の問題点や今後の課題について議論したことは、今後の研究に活かしていきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
非市民登録簿等の新たに加えた史料を含めて、プリブールの市民登録簿に関する史料群を網羅的に研究することが当面の課題である。未刊行史料を解読・データ化し、都市市政、職業地誌、社会地誌等様々な側面から検討し、中世後期の市民層を明らかにしたい。ブリブールの事例だけでなく、近隣諸都市の市民登録簿や都市文書についても比較検討すべきであると考えている。
|
Research Products
(2 results)