2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J04809
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小草 泰 慶應義塾大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 知覚 / 身体感覚 / 現象的性格 / 志向性 |
Research Abstract |
本研究の目的は、現代の哲学的知見と科学的世界観に照らして真に有望で、説得力のある知覚理論とはいかなるものかを明らかにすることである。今年度は、この目的の達成のため、とくに「知覚経験の現象的側面と志向的側面の関係についての現象学的な研究」に取り組んだ。 より具体的には、知覚の哲学において比較的周縁的な扱いを受けることの多い、痛みやかゆみなどのいわゆる身体感覚に特に注目した。これらの感覚は、主体の身体という物理的世界内の一事物のありようにかかわる一種の「知覚」としばしばみなされる一方で、また外界のありように回収されない主観的な感覚的・質的側面を有しているとも言われるが、これらにおける現象的側面と志向的側面の関わりを(も)十分に説明しうるかどうかという観点から、現在有力視されている「志向説」、「選言説」(素朴実在論)、「クオリア説」を特に現象学的な観点を尊重する見方から検討し、いかなる立場が魅力的であるかを探求した。そして以下のような結果を得た。 (1)痛みの質を経験独立的と考えるのは難しく、したがって経験独立的な可感的性質の主体への現前によって現象的性格を捉えようとする選言説の説明方針を、これらの感覚に拡張することは困難である。 (2)志向説(の少なくとも標準的バージョン)も類似の困難を抱える。志向説論者たちはこの困難に対処するため、経験の志向的内容の「非概念性」や、それに含まれる独特の「与えられ方」、あるいは内容に加えて措定される「志向的モード」などに訴えるが、これらはいずれも、痛みの現象的性格を志向説的枠組み内部で十全に扱うことに成功していない。 (3)クオリア説は、経験(心)依存的な存在者を認める点で有利であるが、旧来クオリアに結びつけられてきた、「非志向的で非空間的な質」という描像に固執する限りは、痛みの経験が身体という事物についての一種の知覚として機能しうることを滴切に説明するのは困難である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記の通り、とくにこれまで比較的周縁的な取扱いを受けてきた身体感覚の現象的側面と志向的側面の関わりに則して、現在の主要理論を検討しなおすことで、一定の結果を得るに至っており、またそれらの成果はすでに発表準備段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず(1)身体感覚の検討を通じて到達した、経験における主観的な感覚的・質的要素が、身体感覚だけでなく知覚経験一般においていかなる認知的ないし認識的役割を果たしているのかという課題、また(2)そのような要素を含む知覚経験がとくに科学的な世界像との関連においていかなる存在論的身分を持つのかという課題に取り組む予定である。
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Research Products
(1 results)