2012 Fiscal Year Annual Research Report
わが国における財務諸表監査の失敗についての実証研究
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12J04814
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
亀岡 恵理子 早稲田大学, 商学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 監査の失敗 / 粉飾決算 / 監査人の独立性 / 精神的独立性 / 正当な注意 |
Research Abstract |
本研究は、公認会計士による財務諸表監査の失敗を分析対象とする事例研究を通じて、現在、制度として行われている財務諸表監査の有効性を実証的に検討することを目的としている。具体的には、「監査の失敗」と考えられる個別事例について、様々な資料に散在している情報を収集し、全体像を把握する。 監査の失敗には、監査人の(1)精神的独立性の欠如に起因するものと(2)監査判断のミスに起因するものがある。本年度は、このうち(1)タイプの事例に分析対象を絞り、フットワークエクスプレス[2001年]とWorldCom[2002年]を取り上げ、企業がなぜ、どのようにして粉飾決算を行ったのか(会計上の意義)、および監査人がなぜ、どのように粉飾決算の検出に失敗、または関与してしまったのか(監査上の意義)をそれぞれ明らかにした。 従来、精神的独立性の欠如と監査の失敗との間の因果関係は認知されていたが、本年度の研究を通じて、両者の因果関係には2つのパターンがあることが明らかになった。第1は、長期的契約関係、監査チームおよび会計事務所内部の力関係といった諸要因が作用した結果、監査人が精神的独立性を喪失し、粉飾決算を黙認したというパターンである(フットワークエクスプレス事例)。第2は、監査人が粉飾決算を知っていたわけではないものの、諸要因により無意識のうちに精神的独立性が弱体化し、それが、実施する監査手続の種類や対象とする範囲、職業的懐疑心の水準、入手する証拠の種類、リスク評価といった局面における監査判断に影響を与えた結果、重要な虚偽表示の検出に失敗したというパターンである(WorldCom事例)。精神的独立性は、監査に従事する監査人個人の心の状態であるため、監査人自身にしか認識できないという特徴を持っているが、本研究を通じて、精神的独立性が近因または遠因となって監査の失敗が生じるまでのプロセスを可視化できると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書記載時に計画した通りの進捗度で事例分析を行っている。事例研究は、資料収集から研究が開始されるため、必然的に下準備に時間を要するが、現時点では、今後分析する事例に関する資料収集についても徐々に進めており、全体としておおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、Enron[2001年]および日本長期信用銀行[1998年]を新たな分析対象として、これまでと同様の方法で事例研究を進めていく予定である。両事例については、資料収集(新聞・雑誌記事、調査報告書、書籍ほか)を徐々に進めており、現在は、事実関係を把握するため、それら資料を読み通しているところである。また、個別事例分析を進めると同時に、より深い事例分析を行うためには、監査理論の方からも学術書、学術論文等を通じて学ぶ必要がある。このため、「監査上の独立性」、「客観性」、「監査の失敗」、「意図や認識」、および「無意識のうちに独立性が弱体化する」ことについて他、自身が疑問に感じている事柄に関連して、監査の領域にとどまらず文献を渉猟し、研究の深度を深めたいと考えている。
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Research Products
(2 results)