2013 Fiscal Year Annual Research Report
わが国における財務諸表監査の失敗についての実証研究
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12J04814
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
亀岡 恵理子 早稲田大学, 商学研究科, 特別研究員DC1
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Keywords | 監査の失敗 / 粉飾決算 / 不正な財務報告 / 監査人の独立性 / 精神的独立性 / GAAP / 特別目的会社(SPE) / IPO企業の監査 |
Research Abstract |
本研究は、公認会計士による財務諸表監査の失敗を分析対象とする事例研究を通じて、現在、制度として行われている財務諸表監査の有効性を実証的に検討することを目的としている。具体的には、「監査の失敗」と考えられる個別事例について、様々な資料に散在している情報を収集し、監査の失敗が生じた背景や原因を監査理論と結びつけて把握することが分析の到達目標である。 監査の失敗には大別して、監査人の①精神的独立性の欠如に起因するものと②監査判断のミスに起因するものがある。本年度は、昨年度に引き続き①タイプの事例に分析対象を絞り、アメリカにおけるEnron [2001年]とわが国におけるプロデュース[2008年]の事例を取り上げ、分析を行った。 まずEnron事例については、SPEを利用した不正会計スキームに焦点をあて、SPEの非連結スキームをGAAPと結びつけて明らかにした。そのうえで、Enron不正会計の会計上の意味を①SPE実務に内在する問題、②GAAPの設定と解釈に関する問題、および③基準の適用に関する問題の3点から考察した。本分析には監査上の分析を行う将来研究の前段階としての役割があり、本分析によって、従来「監査人の独立性」の観点から一面的に説明されることの多かったEnron事例を「GAAP準拠性VS適正表示」といった監査判断の観点からも考察する必要があるとの示唆を得られた。 次にプロテユース事例では、IPO企業の監査という特殊環境下での監査の失敗を分析した。被監査会社および監査人の置かれた状況を時系列に調査した結果、監査人の精神的独立性が脅かされうる状況、すなわち、同一監査人が上場前後に継続してIPO企業の監査に従事する状況、および期末直前に監査人の変更が起こる状況を識別した。また本分析は、粉飾決算に関連して監査法人が消滅し、わが国で初めて倒産した事例としてデータを蓄積する意味も持っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
交付申請書記載時にはEnron [2001年]と日本長期信用銀行[1998年]の事例分析を計画していたが、前者の事例分析は途中段階にあり、後者については資料収集の段階にとどまっているためである。しかし、両事例はいずれも規模および複雑性が高いため、分析に時間を要することはある程度やむを得ないことであると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続きEnron[2001年]の監査上の分析を行い、また日本長期信用銀行[1998年]の資料収集およびそれらを読み込む作業に取り組む予定である。これまでの研究では個別事例分析に大半の時間を費消してきたが、今後は、蓄積した個別事例を包括する理論的枠組みの創造に取り組むこととしたい。個別事例分析で得られた結果から共通項または相違項を識別することや比較考察を行うことに加えて、関連する監査概念に関する先行研究の検討、制度改革の経過追跡および現行の制度状況の把握など、研究を最終成果にまとめる方向へと作業を進めたいと考えている。
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Research Products
(2 results)