2012 Fiscal Year Annual Research Report
心理学実験とシミュレーションによる韻律・音素・意味処理の発達的変化についての検討
Project/Area Number |
12J05341
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷田 勇樹 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 音韻性短期記憶 / 長期的知識 / 韻律 / アクセント / 音素配列 |
Research Abstract |
音声は時系列情報であるため、語の認知には呈示された瞬間の音だけでなく数瞬前の音も保持する必要がある。そのための心的機構が音韻性短期記憶である。単語学習にもまず音韻の短期的保持が重要になることが示唆されている。本研究では音韻の短期的保持に韻律要素がどのような効果を持つのかを検討することで語彙獲得の機序とプロセスを明らかにする。以下に当該年度の成果を項目別に記す。 ○論文執筆:言語発達的に成熟したと見なすことのできる大人を対象に、韻律情報の一つであるアクセントパタンが音韻の短期記憶に影響を与えることを明らかにした一連の実験をまとめて論文を執筆した。この実験結果は我々が母語の韻律的特徴を統計的に処理・学習し、単語処理を効率よく行なっていることを示唆する。 ○実験:大人を対象に、音韻性短期記憶へのアクセントの影響をさらに検討した。上記の実験とは異なり、今後予定している幼児に対する実験と同じ記憶負荷の小さな課題を用いた。実験の結果、記憶負荷の小さな状況ではより直接的にアクセントパタンが音素系列の短期的保持に影響を与えることが明らかになった。 ○新しい統計手法への習熟:語のアクセントパタンは地域によって異なるため、実験参加者や実験材料によってその効果に差がある可能性がある。それらを考慮して効果を検出できる混合効果モデル分析に習熟した。 ○シミュレーションへの習熟:計算機によるコネクショニストモデルシミュレーションを計画しているため、その理解と技術の向上に努めた。モデリングに関する文献を精読した他、この領域の世界的な研究者であるカーネギーメロン大学のDavid C.Plaut教授から直接モデリングの指導を受けた。 ○コーパス分析:音韻性短期記憶成績は語の性質によって異なることが知られている。実際の単語学習の場である母語環境で、それらの性質がどのような複合性を成しているのかをコーパス分析より明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遅くない進歩状況であり、着実に前進している。新しい現象を報告する場合、追試を行いその現象がたまたま得られたものでなく、一般的に存在することを確実にする必要がある。本研究の土台となる新しい現象についても1実験だけではなく丁寧に追試を行ない、得られた現象が確かなものであることを確認している。今後はその土台の上に着実に研究を積み重ねることができるだろう。計画以上に速いわけではないが、丁寧かつ着実に前進していることから(2)と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は得られた現象が、どのようなメカニズムによって生じているのかを具体的に明らかにするため、コンピュータによるコネクショニストモデル・シミュレーションを計画している。また、近年の研究や本実験の結果から、アクセントパタンに限らず、ひろく韻律全般が音韻性短期記憶に影響する可能性が示唆されている。単語学習のメカニズムを明らかにするためには、他の韻律要素の影響についても明らかにする必要がある。そのため今後はアクセントパタンの影響に関するシミュレーション研究と、他の韻律要素の影響の実験的検討の二つを軸として研究を進める。
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Research Products
(3 results)