2012 Fiscal Year Annual Research Report
米国小学校における学習障害児支援体制の構築-RTIによる通常教育と特殊教育の連携
Project/Area Number |
12J05514
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
羽山 裕子 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 特別支援教育 / 学習障害 / Response to Intervention / アメリカ合衆国 / alternative assessment |
Research Abstract |
今年度の研究の目的は、Response to Intervention(RTI)の実践の様相について明らかにすることであり、特に(1)RTI実践で用いられる評価ツールCurriculum Based Measurement(CBM)について分析すること、(2)RTI実践の場で積極的に取り入れられているリーディング・リカバリー・プログラムの特徴を検討することの二点を具体的な研究目標とした。研究を進める中で、(1)で明らかとなるCBMの特徴を、現在のアメリカ合衆国の文脈に照らし合わせて評価するためには、アメリカ合衆国における教育評価の変遷と特別支援教育への影響を押さえる必要がある(1)')こと、(2)の検討の前提としては、学習障害児指導方法をめぐる複数の立場の整理を行う必要がある(2)')ことが判明した。以上をふまえて今年度は、(1)、(2)、(2)'を進め、かつ(1)'に向けた探究を始めた。 研究の結果、以下の成果が生み出された。(1)については、CBMを推進する論文の中で、これを代替的評価の一種であるパフォーマンス評価であると主張する動きが見られた。しかしながら一方で、推進者たちはコンピューターによって管理しながらCBMを実施することも考えており、そこでの主張は、複雑で多様な解答を前提とするパフォーマンス評価の考え方と相違が見られた。ここから、パフォーマンス評価の特徴や意義には解消されないCBM独自の特徴や意義の存在が示唆された。 (2)'については、主要な三つの指導方法は、背景に持つ心理学的基盤や学習障害観のレベルから異なる主張であることを明らかにした。さらに、各派の主張は融合の兆しを見せつつも実現していないことも指摘した。このように、学習障害児への有効な指導方法に合意が得られていないこと、また各指導方法が何らかの心理学的主張に依拠していることが明らかになったことで、(2)の研究を進める際に留意すべき論点が得られた。(2)については、リーディング・リカバリーとRTIが異なる読み書き指導論に依拠するにも関わらず、共存関係にあることが確認された。その背景には、RTIに適したプログラムかどうかは「科学的な根拠に基づくこと」を重視して判定されており、読み書き指導観や学習障害観を問わない判定項目であることが影響していると考察した。 (1)'については、アメリカ合衆国の通常教育において、従来の標準化された多肢選択型学力テストへのアンチとして代替的評価(Alternative Assessment)が主張され始めたことを受け、特別支援教育においても代替的評価が有効性を模索する動きが1990年代前半を中心として見られた。この動きは、州による学力テストにおける特別支援教育対象児への配慮としても現れていたことが確認された。ここから、(1)'の検討を深め、それを踏まえてCBMの位置づけを評価して(1)の研究課題の完成に至るためには、州による学力テストにおける特別支援教育対象児への配慮に関する資料を収集・検討する必要性が残された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、年度当初の研究目的(1)、(2)を達成する過程で(1)'、(2)'という新たな課題の設定と解決を行ったこと、その中でも(2)、(2)'に関しては、今年度内に発表や論文としての成果につなげたことからは、当初の計画を上回る達成であったと言える。一方で(1)および(1)'に関しては、(1)'に係る追加調査が必要になったため、いずれも発表にまで至っていない。以上より、計画以上に進んだ部分と計画を外れた部分の双方があることから、今年度の研究は方向性が当初と異なるものの、量的な達成度は当初の計画にほぼ即していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進に向けては、まず今年度において残された課題である(1)の追加調査の遂行が挙げられる。(1)については、当初は国内調査のみで完遂できると考えられていたが、各州が行う学力テストにおける特別支援対象児への配慮の中に、代替的の評価の考え方が反映されており、CBMに関する考察を深めるためには、このような学力テストでの配慮も視野に入れる必要性が示唆された。そこで、当初の研究計画においては、各州の学力スタンダードと学習障害児評価基準の連関を調査することを次年度の課題として挙げていたが、スタンダードだけではなくテスト問題とそこでの特別な配慮までを調査対象として含めたい。以上の調査のために、次年度は当初の予定通り海外調査を行うものとする。
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Research Products
(3 results)