2012 Fiscal Year Annual Research Report
アウシュヴィッツに連関づけられた救済の観点からの宗教哲学的なレヴィナス研究
Project/Area Number |
12J05598
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
根無 一行 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | アウシュヴィッツ / 倫理の可能性の条件 / 神の自己性 / 死者の復活 / まなざしなき他者 / 殺人者の「顔」 / SSの「顔」 / パレスチナの「顔」 |
Research Abstract |
本研究の目的は、レヴィナスのテクストにおいてその哲学の基本線に抵触する記述を拾い上げ、組織的に考察することによって、アウシュヴィッツに連関づけられた「救済」の観点からレヴィナス哲学全体を捉え直すことである。 平成24年度の成果としては以下の三点があげられる。 1、神をキリスト教的なものとする可能性のある「神の自己性」という抵触的観念をレヴィナス的倫理の可能性の条件として解釈することで、倫理と悪の発生の同時性がレヴィナス哲学の最深部にあることが示された。 2、他者の救済を主体の「後悔」という間接的な仕方でではなく死者の復活=責めない他者という直接的な仕方で構想する抵触的記述をまなざしなき他者という形象へと結びつけることで、そこにこそレヴィナス哲学の真髄があることが示された。 3、レヴィナス中期に見られる殺人者の「顔」の構想が死者の意味づけという直接的な仕方での他者の救済を意味することを明らかにし、その意味づけは後期の観点からは他者の死の領有を意味する抵触的なものであることを確認した上で、そこにはパレスチナの「顔」が構想されており、そこにこそレヴィナスが自らの哲学に最も忠実な地点があることが示された。 これらはこれまでのレヴィナス研究においてはほとんど類例のない非常に新しい解釈であるという点に重要な意義が認められるが、これらの解釈が恣意的なものでないのは、これらの解釈がメモ書きなどを含めたレヴィナス哲学全体の精査と二次文献、アウシュヴィッツ・パレスチナ関係文献の調査によって得られたものであるという点から裏づけられている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「アウシュヴィッツ以後の主体の救済」を論じようとする本研究の平成24年度の研究によって明瞭になったのは、「アウシュヴィッツ以後の他者の救済」という観点である。そしてさらに重要なのは、レヴィナス哲学の基本線の「アウシュヴィッツ以後の他者の救済」と区別された、レヴィナス哲学に抵触する「アウシュヴィッツ以後の他者の救済」という観点が得られたことである。この観点は当初想定していなかった全く新しいものであった。特に、パレスチナの問題は、それ以上掘り下げることができないと思われていた「アウシュヴィッツ」という本研究の土台をさらに深く掘り下げて本研究を深みのある豊かなものにする契機となりうる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の「アウシュヴィッツ以後の他者の救済」という観点を獲得したことによって、レヴィナス哲学全体を一層包括的に理解していくことができるようになった。今後の研究を推進するにあたり基本的な方策となるのは、この観点からもう一度レヴィナス哲学全体を精査することである。
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Research Products
(2 results)