Research Abstract |
本研究の目的は,職場におけるレジリエンスをチーム,個人の各レベル,およびクロスレベルの影響に注目してその発揮過程及び促進要因を明らかにすることである。これは,近年,社会の急速な変化に伴い,仕事組織はこれまで予測しなかったような様々な困難な状況に直面する可能性が高まっており,さらに,東日本大震災が起こったことで,予想もできないような突発的で深刻な状況に直面する可能性がゼロではないことも示され,組織が万が一困難な状態に陥っても,そこから回復することを可能にするカーレジリエンスの重要性が高まっていると考えられるためである。本調査では,まず震災当時,指揮官を務めたA食品会社代表取締役へのインタビュー調査を実施し,その後,A食品会社の全従業員を対象とした質問紙調査を実施した。主な研究成果としては,組織レベルでは,組織の迅速な復旧のためには,従業員の組織コミットメントを高く保つことが何よりも重要であることが示唆された。そしてこの組織コミットメントを高く保つには,困難な状況下においてもチームワークを発揮することや,自分たちの組織はどうにか復旧できると信じることができることが重要であることが見いだされた。また,個人レベルでは,組織に対する満足度や誇りを感じたり,組織から尊重されていると思えたりすることでレジリエンスの発揮に繋がり,精神的健康や組織へのコミットメントが促進されることが示された。本研究は,比較対象が存在しないため,個別事例の質的研究であり,結果の一般化には妥当性が低いともいえるが,未曽有の状況の中で見事な復旧を遂げた事例であるという強みが,その一般化の困難性を克服し,窮地に立たされた際に,どの組織にも共通して求められる重要な要素が浮かび上がってくることが期待できる。そこで,今後も引き続きデータの詳細な分析を行い,組織個人レベルのレジリエンスを高める要因を検討していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,被災地の組織の調査協力を得ることが困難であろうという予想から,1年目に実験室実験による研究を行い,その間に交渉を行い,2年目に組織を対象とした調査を行う予定であった。しかし,本年度中に調査協力を得られることになったため,2年目の計画を前倒しして実施した。このことにより,より時宜を得た研究成果の発表に繋がっていると考えられる。何よりも,被災しながらも迅速な復旧を可能にした組織のデータは大変貴重であり,これを得ることができたということで研究目的の達成度を高く評価することができると考える。ただし,比較対象の組織がないこと,また,貴重なデータの詳細な分析がまだ途上であるということから,(2)とする。
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Strategy for Future Research Activity |
被災地の組織における調査によって,職場におけるレジリエンスに関しては,個人レベルのみならず,よりマクロなレベルで捉えることの重要性が確認された。すなわち,個人が精神的に回復できるか否かは,個人のレジリエンスの高さだけで説明されるものではなく,周囲との相互作用や,周囲の環境の影響を多大に受ける。そこで今後は特に集団レベルのレジリエンスにより注目し,24年度の計画としていた実験室実験による調査を行う。しかし,比較対象となる企業の調査協力が得られることになれば,計画を変更して,組織における調査を優先的に実施する予定である。
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