2012 Fiscal Year Annual Research Report
史実と虚構の融合と分離 -マンゾーニの歴史小説に隠された語りの戦略-
Project/Area Number |
12J05679
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
霜田 洋祐 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | アレッサンドロ・マンゾーニ / 『いいなづけ』 / イタリア文学 / 歴史小説 / 歴史叙述論 / フィクション / 物語論 |
Research Abstract |
本年度は、歴史小説「いいなづけ』において、著者マンゾーニが「事実を事実として伝えようとする部分」について、フィクションとしての全体に対する関係を考察するとともに、その部分を個別に見た場合の「歴史叙述らしさ」を検討した。具体的には、まず1)フィクションにおける「著者と読者の語りの契約」という観点から、テクスト内に表現された〈著者=語り手〉および〈聞き手=読者〉の形象についての分析を行い、次に2)「歴史叙述」 というジャンルに固有のテクスト上の特徴が、『いいなづけ』の中の「歴史叙述」的章にどの程度見られるかを調べ、史実を語る部分に特有のレトリック(表現技法)を確認した。なお、本年度の10月以降は、研究指導委託制度を利用し、在外研究を行っている(イタリア国立マンゾーニ研究センター、ミラノ大学スペーラ教授)。 1)については、以前より語り手の使用する一人称の諸形の分析に取り組んでおり、既存の類型モデルの書き換えを試みた論文が、今年度、査読を経て「イタリア学会誌」(第62号)に掲載された。「著者の一人称複数」と「共感の一人称複数」を区別することによって、前者が典型的には事実の叙述のために使われていることが確認された。また、後者つまり読者を含む「我々」に注目すると、「語りの契約」の重要性を説く近年の読者論に、さらなる証拠を提示できることがわかってきた。 2)については、文学(物語論)の立場から指摘されている歴史叙述の形式上の特質をパラメータとするとともに、特に「一次史料の引用」の技法に注目することによって、小説中の史実を報告する箇所が「歴史叙述」の結構を十分に備えていることが、具体的に明らかとなってきた。この成果は、連続掲載にかんする規定により本年度は「イタリア学会誌」に投稿できなかったが、すでに論文として仕上げておりL月に「研究報告」として京都大学文学研究科に提出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「読者論」については、研究は進んでいるものの、当初の予定と異なり、未だ論文または研究ノートの形にはま・とまっていない。これは〈著者=語り手〉像の研究および「歴史叙述論」の調査に予定より時間がかかったためであるが、その過程で19世紀前半の歴史叙述と歴史小説の相互の影響・競合関係について理解を深めることができた。これは来年度の課題である「フィクションと歴史との有機的つながり」を考察するための重要な手掛かりとなる。それゆえ、研究の順序こそ当初の計画と多少ずれているが、総合すると順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度前半は、引き続きマンゾーニ研究センターを拠点に、研究、文献の収集を行う。『いいなづけ』の「読者論」を仕上げ、また「フィクション部分の本当らしさ」にまつわる語りの技法の問題に取り組むにあたり、ミラノ大学にいる物語論(特に「著者と読者の語りの契約」)の専門家であるローザ教授らの助言を仰ぎ、可能であれば講義やセミナーにも出席したい。帰国後は受入研究者の指導のもと、博士論文の執筆に取り組むが、それは本研究課題を進める過程で提出した個々の成果を、ひとつの集大成としてまとめる作業に他ならない。
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Research Products
(1 results)