2012 Fiscal Year Annual Research Report
里山環境評価にナラタマバチ族(膜翅目:タマバチ科)を利用するための基礎的研究
Project/Area Number |
12J05764
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
井手 竜也 九州大学, 比較社会文化研究院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 虫こぶ / 指標昆虫 / 里山植物 / 分類学 / ナラタマバチ族 |
Research Abstract |
里山のような二次的自然環境における生物多様性の保全に注目が集まる中、その環境を評価する手法が必要とされている。ナラタマバチ族のタマバチは虫こぶを調べることによって定量的な調査が容易である等の利点から里山の環境評価指標として非常に適していると考えられる。しかしながら、本族のタマバチは基礎的な分類体系が確立されていないために普通種の同定すら困難な状態にあった。そこで本研究は、日本産ナラタマバチ族の既知種の分類学的整理、未記載種の記載、分子系統学的解析によって、その分類体系の確立に取り組んでいる。 研究初年度は、タイプ標本および原記載に基づく既知種の分類学的整理、ならびに未記載種の探索と記載を重点的に実施した。また、国内各所で虫こぶの採集をおこない、分布の記録や未知の虫こぶの探索に取り組んだ。並行して、分子系統学的解析に向けて、ナラタマバチ族各種のDNAを抽出した。論文の実績としては、常緑性のアカガシ亜属を寄主とするCycloneuroterus属の3種(C.akagashiphilus、C.arakashlphagus、C.hisashii)およびPryocosmus属の2種(D.sakureiensis、D.sefuriensis)の新種記載をおこない、アカガシ亜属を寄主とするナラタマバチ族の潜在的多様性について報告した。学会発表の実績としては、韓国で開催された国際学会において、上記の2種も含め、これまでに報告したアカガシ亜属を寄主とするナラタマバチ族に関して、また国内の学会大会において、クヌギを寄主とするナラタマバチ族について形態や分類の新知見に関して講演をおこなった(学会発表3件、うち国際学会における招待講演1件)。ナラタマバチ族は日本から49種1亜種1地理的品種が記録されていたが、タイプ標本および原記載の精査による新参異名の確認、野外調査による未記載種の探索といった、これまでの一連の成果により、少なくとも10属35種が日本産ナラタマバチ族として認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既知種の分類の整理については、既知種全種の現存するタイプ標本と原記載の比較・観祭はすでに実施しており、形態の再記載等も完了している。また未記載種の記載に関しては一部は既に学術雑誌に発表済みであり、これまでに見出した他の未記載種もほぼ投稿を控えるのみとなっている。分子系統学的解析については、解析が一部の種を用いておこなったものに留まっているためやや遅れ気味ではあるが、随時サンプルの入手、DNAの抽出は進めていることから、おおむね順調に進展しているといえる。里山環境の評価指標に用いる種の選定も本調査に向けて、予備調査を実施済みとしている。
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Strategy for Future Research Activity |
既知種の分類の整理および未記載種の記載の成果は、順を追って学術雑誌に発表する。またこれまでの研究によって、形態をもとに構築された基礎的な分類体系を基礎に、分子系統学的解析を進めていく。具体的には核DNAの28S領域、ミトコンドリアDNAのCOI領域、cytb領域を用いて、日本産ナラタマバチ族各種と旧北区で既に明らかにされているナラタマバチ族のDNA情報を基に系統樹を作成し、形態と分子の両面から種間、属間の系統関係を考察する。またDNAバーコーディングによるナラタマバチ族の種の同定手法の確立をおこなう。
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