2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J05815
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
早田 清冷 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 満洲語 / 三国志演義 / 所有形容詞派生接辞 |
Research Abstract |
第一に、今年度は今後の研究の為の電子化コーパスの整備に最も重点を置いた。順治年間の満洲語の資料である満洲語訳『詩経』(後半部分)と康煕年間の規範的ではない書き言葉で書かれた満洲語の資料である『随軍紀行』を中心に入力を行い,資料写真と連携した電子化コーパスの作成を行った。これは,平成23年度に中国藩陽市で得た資料を電子化コーパスにして分析可能にすることが目的であり,『随軍紀行』は既に規範的な綴りに直したローマ字転写が複数公刊されているので,この資料の電子化は本年度の予定には無かったが,その手書きの綴りの特殊性が,満洲語音韻史の研究上重要である事が判明した結果,急遽,全文の新たな電子化を行ったものである。 第二に、従来順治年間の満洲語の研究に多く用いられてきた満洲語訳『三国志』(順治7(1650)年序)を巻毎に分析した。その結果,この資料の前半部分には漢語満訳文献では少数であると思われる表現が集中している事が判明した。前半部分の一部の文が更に古い時代に満洲語訳されたものから書き写されたものである可能性を指摘することが出来る。これにより,順治年間の(後の康煕年間とは異なる)特徴と思われた現象の一部はさらに古い時期の特徴であった可能性がある。この問題に関しては,今後さらに研究を進める必要がある。 第三に、従来簡単な記述しか行われていなかった形式について分析をすすめた。 所謂「所有形容詞派生接辞」について用例を収集して分析を行った。この形式が具体物の所有にあまり用いられず,所有者と分離可能なモノにも,珍しくない身体部位の存在にも使用できない事が判明した。 属格形式について用例を収集し分析を行った。満洲語の属格形の用途には様々なものがあり,ほぼ日本語の「の」に当たることは従来から知られていたが,いわゆる「同格用法」において,満洲語の属格形式は,日本語の助詞の「の」とは異なる様相を示す事がわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究一年間の最優先事項は文献写真と連携して使用できる電子化コーパスの作成である。コーパス作成作業は、予定通り順調に完了したと言える。また、作成済みの電子化コーパスを用いた分析の結果としては、満洲語訳『三国志』において当初注目していた形式以外に、時代によって様相が異なる可能性がある現象が複数確認された。これによって康煕年間の満洲語とそれ以前の満洲語との時代差の研究の進展も見られた。本格的な分析のための準備を整えるという当初の計画はほぼ実現された考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
コーパスの作成作業を完了したので、次年度より本格的な分析に移ることになる。一方で、指示詞や代名詞など当初、本研究の中心的な分析対象として想定されていた語以外の多くの語や形態素の用法、表記に現れた発音などにおいても入関時期以前と以後の時代差である可能性が疑われる文献上の差が多数見つかっている。これらの現象に関しても分析しなければ、満洲語の変化の全貌や、各時代の満洲語の特徴を十分に明らかにすることは不可能であると考える。属格の問題は一年目に通説とは違う面が発見されているうえ、当初想定された中心的な分析対象である人称代名詞にも関連する重要な問題であるから次年度以降の中心的な分析対象に加える。作成したコーパスから用例を抽出し時代の異なる資料ごとの特徴を明らかにすることを試みる。同じく通説では説明しきれない現象が見られた表記と発音の問題についても文献画像を効率的に参照しつて分析を進めてゆく。
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