2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J05815
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
早田 清冷 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 満洲語 / 属格 / コピュラ / 繋辞 / 色彩語 |
Research Abstract |
平成25年度は, 満洲語の属格標識に関する問題について重要な問題を扱った。属格標識(-i)は満洲語において最もよく用いられる文法形態素でありながら, 従来簡単にしか記述されてこなかった。詳細な記述が妨げられてきた原因として, 時代差や個人差が軽視されていた事, 繋辞の連体形と属格主語の記述に問題があった事が言える。平成25年度にこれらの問題に関して大きな進展を見た。 ・満洲語訳『三国志』(順治7 (1650)年序)を主に属格の用法に注目して前年度に引き続き分析した。その結果として, (狭義の)所有関係を表さない属格標識の用法のうち「動詞の未完了連体形が属格標識をともなう用法」, 「数量詞が属格標識をともなう用法」に関して, この資料の後半部分で属格標識の使用の衰退(-iの使用の減少)が見られた。このうち「動詞の未完了連体形那属格標識をともなう場合」は他の資料と比較すると時代差である可能性が高い。属格標識の多機能性を分析する上でこのような差異の存在は重要であると考えられる。 ・繋辞連体形と属格主語コーパス中のいわゆる繋辞連体形の用法を網羅的に分析する事により, 繋辞に関する従来の記述に反して繋辞の連体形がゼロ(音形なし)になり得る(むしろ通常はゼロである)事, そして属格主語に関する従来の記述に反して, このゼロの主語が属格主語になり得る事が判明した。この事実により, アルタイ諸言語において珍しい「同格の属格」など, 十分な記述が行われてこなかった属格の用法について合理的な記述をする事ができる。 ・また色彩語について報告者は既に清代の黒を表す色彩語に時代差がある事を把握していたが, この分析を発展させ, 満洲語に起きた色彩語の変化がシベ語と満洲語の言語接触の結果としてシベ語(シベ語は17世紀の時点で満洲語と別の変種であった可能性が高い)に影響を与えた可能性がある事も指摘し論文として発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本語など他の言語との対象研究の準備は当初の予想以上に時間が掛かったが、満洲語の属格の記述において予想を上回る大きな進展をみた。色彩語の時代差に関する記述にも進展があった。総合的に見て、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、属格に関しては他の言語の類似する形式との違いも考慮し、この形式の本質的な機能の特徴を明らかにしていく事を目指す。また多くの現象に分析範囲を広げ、17世紀の満洲語の諸々の言語現象の分析を進め、この時代の満洲語の特徴を明らかにしていくことを目指す。
|