Research Abstract |
漁獲対象種や固有種,絶滅危惧種などの魚種が含まれる広塩性魚類の回遊研究は,気候変動と生息域改変が急速に進む現在において,水産学・保全学上共通の喫緊の課題である.本研究では,広塩性魚類を広く研究対象として,通し回遊とその可塑性について研究を行った.本年度の主な研究成果を以下に示す.1.ベトナム・メコンデルタに生息するマッドスキッパーの一種Pseudapocryptes elongatusは,現地で盛んに養殖されており,単価も高く食品としての消費需要も高い.養殖用の種苗は天然の稚魚に依存しているが,天然環境下における浮遊仔魚期や産卵などの基礎的な生態すらほとんどわかっていない.本年度は,現地での標本採集を進め,得た標本について耳石を摘出し,その解析を進めた.採集した稚魚の耳石輪紋を計数したところ,仔魚期間が40日程度であることがわかった.また微量元素分析による耳石Sr:Ca比から,これら個体は淡水に遡上していないことが明らかとなった. 2.4-10月に福岡県有明海研の筑後川・有明海調査の7定点においてプランクトンネット採集を行い,遡河回遊魚エツの仔稚魚を採集し,河川における個体密度データを蓄積した.また,産卵のため河川へ遡上した親魚から地元漁協により採卵採精されたエツ受精卵を,福岡県内水面研においてふ化後56日・74日まで飼育した.その結果,稚魚の耳石輪紋数は実際の日齢9割程度であり,耳石輪紋は日輪であることが示唆された. 3.複数の水系から採集されたヨーロッパウナギの雌を用いて,耳石輪紋解析と耳石微量元素分析を行い,年間成長可能期間の積算温度と生息域に対する個体成長の線形混合モデルを構築した.その結果,ウナギの成長には年齢,生息域,積算温度が影響し,個体の成長パタンは経験水温など個体の生活履歴に影響を受け,夏の猛暑による成長への負の影響が検出できることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究プロジェクトの初年度として,フィールドの開拓・調査協力関係の構築および標本の収集を当初予定していた以上に行うことができた.有明海沿岸、筑後川、ベトナムメコンデルタなどのフィールドで、採集調査により魚類標本を多数収集できた.また,採集した標本を用いて耳石解析や微量元素分析を順調に進めることができた.
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