2012 Fiscal Year Annual Research Report
平安朝物語の後宮空間-『宇津保物語』から『源氏物語』へ-
Project/Area Number |
12J05902
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Research Institution | Tsurumi University |
Principal Investigator |
栗本 賀世子 鶴見大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 殿舎 / 承香殿 / 皇妃 / うつぼ物語 / 源氏物語 / 入内 / 参院 / 女三宮 |
Research Abstract |
論文「女三宮の輿入れ-入内・参院儀礼と比較して-」では、『源氏物語』の女三宮と光源氏の結婚について論じた。近年提唱された、女三宮の六条院入りを「降嫁」より入内に近いと考える説は、女三宮に源氏が通うのではなく、源氏の六条院に女三宮が輿入れしたことに注目し、源氏を天皇と同一視するものである。また、結婚五日目の昼に、源氏が女三宮の居所を訪問していることについて、天皇が結婚後に初めて皇妃の居所へ渡御することに準じているのだ、という読みも提示されている。しかし、源氏は完全に天皇のごとく振る舞ったわけではなく、結婚初夜、天皇は清涼殿に皇妃を召すことが普通であったが、自分の方から女三宮の居所へ渡っていたのであった。光源氏が夜ではなく昼に訪問したことは、天皇の初渡御とは無関係で、紫上と夜を過ごしたいため昼に女三宮を訪れたと捉えるべきである。なお、本論文では、従来支持されてきた益田勝実氏の「堀河朝までの天皇は必ず宝剣の安置される清涼殿で就寝した」とする説への反証として、天皇が皇妃の居所で泊まる例をいくつか挙げている。 東京大学国語国文学会では、「宇津保・源氏の承香殿-悲願を果たしえぬ皇妃たち-」という題目で口頭発表した。本発表では、史上の承香殿の皇妃たちについて検証し、帝の居所・清涼殿に隣接する承香殿は、筆頭皇妃の住まう弘徽殿に次ぐ格付けを持つ、第二位の皇妃が入る場所であったことを明らかにした。しかし、一方で承香殿の皇妃たちは、后や国母となることが叶わず、後宮で寵妃として時めくこともなかった。こうした承香殿にまつわる史上の敗北する皇妃のイメージが、物語に反映されたのではないかと考え、栄華に手が届かなかった史上の承香殿の皇妃たちの影を、物語の承香殿に読み取った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画で予定していた通り、天皇の皇妃の居所への渡御に関する論、物語の承香殿に関する論をまとめることができた。また、後宮殿舎にまつわる史実の一覧表についても、順調に作成が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、後宮の殿舎が史実において用いられた例を国史・古記録を中心とした史料から網羅的に見つけ出し、利用者の身分や用いられ方についての傾向を把握するため、各々の殿舎にまつわる史実を整理した一覧表を作成していく。その基礎研究を土台として、『宇津保物語』『源氏物語』を中心とした平安朝物語の殿舎設定を検討し、個々の物語における後宮空間使用の特徴をとらえ、その背後に隠れる作者の意図を明らかにする。
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Research Products
(1 results)