2012 Fiscal Year Annual Research Report
希土類元素を用いた胎土分析による弥生時代地域構造の研究
Project/Area Number |
12J05912
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石田 智子 九州大学, 比較社会文化研究院, 特別研究員PD
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Keywords | 土器 / 物質文化 / 胎土分析 / 産地同定 / 弥生時代 / 日韓交流 / 考古学 / 地球科学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、先史社会における土器を中心とする物流ネットワークの実態を踏まえた重層的な地域構造を解明することである。弥生時代中期の北部九州地域は、モノ・ヒト・情報の相互交流が近~遠距離地域間で活発に行われた段階である。本研究では、地球科学的高精度分析手法を用いた胎土分析を行い、考古学的研究成果から提起される地域社会変容メカニズムを検討する。 平成24年度は、土器資料・粘土等の基盤データベースを作成し、高精度胎土分析の方法論を確立した。特に、北部九州地域の玄界灘沿岸地域の弥生中期土器を対象に、波長分散型蛍光X線分析装置(XRF)およびレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析計(LA-ICP-MS)で土器の元素組成を測定した。各県市町村の教育委員会・埋蔵文化財センターの協力を得て、玄界灘沿岸地域に所在する30遺跡出土資料299点(土器294点、粘土5点)を収集し、観察・実測・写真撮影等の記録作成を経て順次分析を進めている。分析の結果、岩石の化学的風化や変質に伴う元素移動や地下水への溶解度が小さく、地質環境に応じて元素組成が異なる希土類元素、二次作用で移動しにくいHFS元素を中心とする微量元素に着目することで、適切な地域区分の指標を得ることができた。上記の分析結果を土器の型式学的研究成果と照合することで、弥生時代中期後半期には、平野や河川等の地形単位を基準とする約5~10km圏内の近隣集落間における土器の生産・移動を常態とする一方で、玄界灘沿岸部所在遺跡-島嶼部-韓半島南部地域の遠隔地域間で土器が移動する現象が認められた。これは、弥生時代中期段階の物流や通婚を含む日常的な隣接地域社会間関係が基盤となって、広域地域間交流が後期以降さらに活発化する状況を示すものであり、地域社会の変容プロセスおよび要因を具体的な物資流通に基づいて解明する重要な成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では本年度は有明海沿岸地域を甲心に分析を実施する予定であったが、以前から進めている玄界灘沿岸地域を中心とする分析をさらに深化させるために必要な追加資料の収集および分析を実施した。その結果、各地域内における様相把握が進み、近隣集落間関係および遠隔地域間関係の双方を検討可能なデータを集めることができた。また、分析の進展に伴い、土器資料のより精密な考古学的観察が可能となり、その成果を韓半島南部地域出土土器資料に適用した結果、一部は搬出元の地域を絞り込むことができた。以上と併行して、有明海沿岸地域の土器資料収集および実見調査を行っており、次年度からさらに地域を拡大して分析に着手する準備ができている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、土器胎土の元素組成を明らかにするために、XRFおよびLA-ICP-MSを中心とする分析を実施した。 次年度は、構成鉱物(偏光顕微鏡)、鉱物化学組成(EPMA)、粘土鉱物化学組成(LA-ICP-MS)を複合的に分析することで、元素挙動の由来を検討する予定である。土器資料の多角的分析結果と地質データを照合することで、より精密な産地同定が可能となる。また、大規模集落内に併存する集団間関係の検討を進めることで、同一遺跡内の居住集団間関係から遠隔地域間関係におよぶ多様な位相の集団間関係やそれに伴う物流ネットワークの特質を把握する予定である。
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Research Products
(6 results)