2012 Fiscal Year Annual Research Report
ゴールの形質変化がゴール形成昆虫-捕食寄生者の生物間相互作用に与える影響
Project/Area Number |
12J06016
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤井 智久 九州大学, 比較社会文化研究院, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ゴール / タマバエ / 捕食寄生蜂 / ダルマクチカクシゾウムシ |
Research Abstract |
植食性昆虫の一部には,自身の発育のために植物組織を物理的・生理的に改変し,植物体上にゴール(虫こぶ)を形成する。ゴールは生きた植物細胞から構成され,栄養に富む良質な餌資源である。また,ゴールは,内部で生活する形成者を過酷な環境(乾燥など)や捕食寄生蜂などの天敵による攻撃から保護するという機能をもつ。 1.修士課程の研究よりマサキタマバエのゴールとその捕食寄生蜂であるハラビロクロバチに寄生されたゴールの厚さを比べると,寄生されたゴールのほうが非寄生のものより厚くなることがわかっている。本年度は,ゴール組織の厚さを比較するため,福岡県と鹿児島県にてマサキタマバエのゴールを採集し,生物顕微鏡の接眼マイクロメーターを用いて,組織の厚さを計測した。その結果,ハラビロクロバチに寄生されたゴールのほうが非寄生のものより有意に厚いことがわかった。本研究は8月に韓国の大邸で開催されたXXIV国際昆虫学会議にて口頭発表した。現在これまでのデータをまとめた論文を投稿中である。 2.伊豆半島および伊豆諸島にてイヌツゲタマバエのゴールを採集し,ゴールを一つずつ袋に入れて飼育し,室内環境下でタマバエおよび捕食寄生蜂を羽化させた。採集した地域ごとにゴールの形質(直径,幼虫室数,幼虫室あたりの体積)と捕食寄生蜂相および各種の捕食寄生率を調べた。また,飼育期間中にゴールからダルマクチカクシゾウムシという珍しい種が得られた。本ゾウムシは福井県,岐阜県,三重県,長崎県および伊豆諸島,南西諸島にて採集記録のみが報告されている。本ゾウムシがイヌツゲタマバエのゴールから得られたことは初知見である。このことについて,日本昆虫分類学会誌に論文が掲載され,そして,第60回日本昆虫学会九州支部大会にてポスター発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
マサキタマバエ-ハラビロクロバチの系において,ハラビロクロバチに寄生されるとゴールが厚くなるのかを確かめるために野外実験を設定した。まず,マサキタマバエをマサキの新芽に放飼・産卵させてゴールを形成させる段階において,実験用に使うタマバエを確保するために九州各地からゴールを採集した。しかし,採集したゴールにおけるハラビロクロバチの捕食寄生率が当初想定したものより高く,放飼する計画をしていたシュート数に十分な量のタマバエの確保ができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本野外実験は,マサキタマバエとハラビロクロバチの系において,寄生されるとゴールが厚くなるのを検証するためにも,また,その機構を解明するために重要なものである。次年度は,実験に使用するためのゴールを採集する前に予備調査し,捕食寄生率を調べて,採集するゴールの数を多めにした。羽化してきたタマバエの交尾を確実にするために,害虫タマバエなどで交尾を観察するために使用された方法を検討している。マサキがもつ虫害抵抗性を考慮して,ゴールの形成されていたマサキの株から挿し木を作り,放飼用のマサキのシュートを準備している。
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Research Products
(5 results)