2012 Fiscal Year Annual Research Report
量子ドット-ナノ共振器結合系の動的制御に関する研究
Project/Area Number |
12J06023
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 達也 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ナノフォトニクス / 量子ドット / フォトニック結晶 / 共振器 / 光機能集積 |
Research Abstract |
申請者は、量子ドットからの発光を、周囲環境を変化させることで制御し、CQEDの動的制御の概念・手法を確立し、さまざまな量子デバイスへの応用を目標として研究を進めてきた。具体的な目標として(1)動的制御可能なQD-共振器結合系の電磁解シミュレーションをもちいたデバイスの設計(2)理論解析による物理現象の予測および応用の提案、(3)光学測定による(1)(2)の理論の実証およびデバイスの実用性の検討の3つを掲げて研究を推進してきた。 本年は、これらの目標に即して、(A)、量子ドット-共振器結合系の量子論に基づく定式化を行い、数値計算によるシミュレートを行うことで、最適なパラメータを算出すること、(B)、電磁界解析により(A)で算出したパラメータを実現可能なデバイス構造の設計、(B)時間分解測定系の構築と、デバイス動作の実証の3つの小目標を設定して研究を進めてきた。(A)に関しては、量子ドット-共振器結合系の量子論による定式化はほぼ完了し、デバイスパラメータを算出可能であることを明らかにした。本研究で用いている、共振器-導波路-反射鏡の集積構造は、共振器の特性を変調可能とするが、その一方でその振る舞いが複雑化することが知られている。申請者は、古典論による定式化を量子論による定式化へと発展させることで、系の振る舞いを正確に再現し、測定時における入力に対する出力を正確にシミュレートする手法を確立した。今後の課題としては、申請者が定式化した方法は、系のエネルギーの散逸を無視しており、現実を正確に反映しきれていない点が挙げられる。今後の改善すべき点である。(B)については、さまざまなフォトニック結晶構造についてシミュレーションを行い、結果をデータベース化することで、望まれるパラメータに最も近いパラメータを持つフォトニック結晶構造を逆引きできるように環境を整備した。具体的には、共振器の形状によるモード体積・Q値の変化、共振器-導波路間距離による共振器のQ値の変化、共振器と反射鏡の距離の変化にともなうモード体積・Q値の変化の3点について、パラメータを振りながら計算を行った。これらの結果から、量子ドットと共振器の結合を大きくするために、モード体積の小さな共振器を選ぶことが重要であること、共振器と反射鏡間の距離を大きくするとモード体積が大きくなるため距離を出来る限り小さくすることでモード体積の増大を抑制可能であることを明らかにした。(C)については高精度な時間分解測定を行うため、手動ディレイラインおよび自動精密ディレイラインを導入し、非常に高い時間分解能をもつホモダイン測定系を構築した。本実験で観測される物理現象の時間スケールはおおよそ20ps程度であるが、今回構築した系は、時間分解能2ps程度であり物理現象に対して十分な精度での実験を行うことが出来る。構築した測定系を用いて、新たな量子デバイスの実証に挑戦しているが、量子ドットからの発光状態をわずかではあるが変調できることがあきらかになり、発光現象を外界から積極的に制御可能であることの端緒が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は(1)動的制御可能なQD-共振器結合系の電磁解シミュレーションをもちいたデバイスの設計(2)理論解析による物理現象の予測および応用の提案、(3)光学測定による(1)(2)の理論の実証およびデバイスの実用性の検討の3つを掲げて研究を推進してきた。これらそれぞれの研究課題に対する進捗状況は次のとおりである。 (1)100%:デバイスにおいて重要となるパラメータを自由に制御できるよう、シミュレーション結果を蓄積し、データベース化を行った。(2)50%:量子論による定式化を行い、理想的な状況におけるシミュレーションを可能とした。(3)50%:高速測定系の構築を完了し、実験結果が徐々に出始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方針としては、(A)量子論による定式化の深化、(B)高速測定系の改善、(C)デバイス動作のより顕著な実証、の3つを目標とする。(A)に関しては、シミュレーションに量子マスター方程式による定式化を取り入れ、系のエネルギー散逸をシミュレートすることにより、より現実に即したシミュレーションを可能とする。(B)に関しては、現状において、測定系のSN比が低く、測定効率を下げている現状がある。これを改善するために、測定対象や入射レーザの偏光を適切に調整して、十分高いSN比を得られるようにする。同時に、光子相関測定系を立ち上げて、単一光子デバイス動作が実証できるようにする。(C)に関しては、本年度において行ったシミュレーション結果から、より高速に、かつ顕著に発光現象を変調できる構造が明らかとなったので、この構造を有する試料を実際に作製し、測定による実証を目指す。
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