2012 Fiscal Year Annual Research Report
バキュロウイルスによる宿主昆虫行動制御メカニズムの解明
Project/Area Number |
12J06034
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
國生 龍平 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | バキュロウイルス / 宿主操作 / BmNPV / カイコ / RNA-seq |
Research Abstract |
病原体の中には、感染により宿主の行動を変化させるものが多く存在するが、病原体による宿主行動操作の分子メカニズムが解明された例はほとんどない。バキュロウイルスは、主にチョウ目昆虫の幼虫に感染する昆虫ウイルスで、感染幼虫は感染末期に異常な徘徊行動を起こすことが古くから知られている。本研究は、バキュロウイルスの一種であるBmNPVとその宿主昆虫であるカイコを用いて、ウイルスによる宿主昆虫行動操作メカニズムの全容を明らかにすることを目的としている。 平成24年度は、当初の研究計画から順番を変更し、まずウイルス感染幼虫の脳を用いたRNA-seqを行った。得られたデータから徘徊行動中にのみ脳で発現量が変化する宿主遺伝子をピックアップし、リアルタイムPCRによる発現の確認を行った。その結果、徘徊行動中のカイコ幼虫の脳において、T3up1と仮称した宿主遺伝子の発現量が約90倍に上昇することを見いだした。また、T3up1は摂食期のカイコ幼虫の脳ではあまり発現していないが、吐糸期(蝋化する場所を探して徘徊する時期)のカイコ幼虫の中枢神経系において発現が上昇することが明らかになった。この結果から、T3up1は徘徊行動の惹起に関与する遺伝子であることが示唆された。 また、中枢神経系特異的プロモーターの開発にむけて、キイロショウジョウバエで神経細胞特異的発現プロモーターとして利用されている遺伝子のカイコホモログのプロモーター領域を調査したが、残念ながら神経細胞特異的な発現は認められなかった。 さらに、徘徊行動の惹起による神経活動の変化を調査するため、電気生理実験の設備を構築し、腹部運動 ニューロンの活動電位を測定した。その結果、徘徊行動中のカイコ幼虫では非感染の場合に比べ、活動電位の頻度が上昇する傾向にあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定を変更してRNA-seqを先に行ったことにより、ウイルス感染脳における宿主遺伝子の発現変化について多くの情報を得ることができた。しかしながら、バイオインフォマティクス初学者であるため、RNA-seqデータの解析方法の習得に予想より多くの時間を要しているのが現状である。また、中枢神経特異的プロモーターの開発を目指していたが、調査した2つのプロモーターが両方共良い結果を得られなかったことも遅れの原因となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、T3up1遺伝子が俳徊行動の惹起に関与することを立証するため、T3up1のノックダウンが俳徊行動に及ぼす影響を調査する。また、RNA-seqデータの解析方法は改善の余地があるため、T3up1以外の候補遺伝子を探索すべく再解析の方針を検討中である。神経細胞特異的プロモーターについては、現在、有力な候補として3xP3プロモーターの利用を考えており、ウイルス感染時にも神経細胞特異的発現が維持されるかどうか調査中である。電気生理実験では、本年度の研究により俳徊行動中の運動ニューロンの活性化が示唆されたので、来年度は脳から各体節への下行性ニューロンの活動を測定することで、脳の行動中枢の活動変化を明らかにする予定である。
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Research Products
(7 results)