2013 Fiscal Year Annual Research Report
バキュロウイルスによる宿主昆虫行動制御メカニズムの解明
Project/Area Number |
12J06034
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
國生 龍平 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | バキュロウイルス / 宿主操作 / BmNPSS / カイコ / RNA-seq |
Research Abstract |
病原体の中には、感染により宿主の行動を変化させるものが多く存在するが、病原体による宿主行動操作の分子メカニズムが解明された例はほとんどない。バキュロウイルスは、主にチョウ目昆虫の幼虫に感染する昆虫ウイルスで、感染幼虫は感染末期に異常な俳徊行動を起こすことが古くから知られている。本研究は、バキュロウイルスの一種であるBmNPVとその宿主昆虫であるカイコを用いて、ウイルスによる宿主昆虫行動操作メカニズムの全容を明らかにすることを目的としている。 平成25年度は、脳において俳徊行動中に宿主遺伝子T3up1の発現量が上昇することが俳徊行動に必要であるか調査するため、神経細胞特異的にT3up1を過剰発現あるいはノックダウンさせ、俳徊行動への影響を調査したが、T3up1は俳徊行動には関与しないことを示唆する結果が得られた。一方で、neuropeptide-like proprecursor 4C (np1p4C)遺伝子の発現量が俳徊行動中の脳で顕著に減少していることが明らかになったため、現在、np1p4Cについて詳細な機能解析を進めている。 また、平成25年度は、俳徊行動が消失する変異ウイルスpolh-proDについて、俳徊行動消失の原因遺伝子の同定とその機能解析を行った。RNA-seqデータを活用してpolh-proDの全ゲノム配列を調査した結果、polh-proDではactin rearrangement inducing factor-1遺伝子(arif-1)にフレームシフト変異が生じていた。そこで、arif-1変異株を作製して感染実験を行ったところ、arif-1変異株では幼虫感染においてウイルスの感染が遅延し、特に脳での遅延が顕著であった。つまり、arif-1はウイルスの全身感染効率を上昇させる遺伝子であり、その働きによって脳への感染拡大がスムーズに行われることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで謎であったpolh-proDの俳徊行動消失の原因遺伝子を特定し、新規の俳徊行動関速遺伝子arif-1を見出したことは大きな進展である。また、俳徊行動時の脳で発現変動する遺伝子の解析は引き続き進行しており、有力な候補であるT3up1やnp1p4Cについてはすでに機能解析に着手している。しかしながら、これらの遺伝子は俳徊行動への関与が示唆されたものの、未だ証明には至っていないため、解析を効率的に進める努力が必要である。一方で、ウイルス感染幼虫の運動神経の電気生理学的解析については、技術的な難易度の高さのため難航している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究により、arif-1が新規の俳徊行動関連遺伝子であることを明らかにしたが、arif-1が全身感染効率を向上させる分子メカニズムは不明である。したがって、来年度はarif-1の作用機序を明らかにするため、FLAGタグを付加したarif-1を発現する変異ウイルスを作製し、arif-1の細胞内局在や組織特異性等を調査する予定である。脳での発現変動遺伝子の解析および機能証明は引き続き行い、俳徊行動惹起に重要な役割を果たす遺伝子を探索する。また、現在電気生理学実験による俳徊行動中の運動神経活動の測定が難航しているため、測定条件を最適化することを急務とする。
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Research Products
(2 results)